第398話
そこからの展開は一方的だった。
私とキルキスの二人で縦横無尽に動き回りつつ、古代種の体を破壊していく。
私の認識できないあの古代種の奇怪な動きはキルキスがすべて叩き潰した。
私の前に突然現れた瞬間、"元からそこにいた"キルキスの拳が古代種を弾き飛ばし、私の前から消え去る。
あの動きをするにはクールタイムのような時間が必要なようで、一度つぶせばしばらくはあの攻撃がこない。
しかし、さすがのキルキスといえど古代種の力を削り取るのは相当に疲労するようで、徐々にキルキスの額にも汗がにじみ始めていた。
だが、古代種といえど限界は存在する。
キルキスが合流し、時間にして30分ほどが経ったとき、ついに古代種の力の限界がと訪れた。
「これで」「最後よ」
私とキルキスの一撃により、古代種の体が崩れ落ちていく。
ようやく倒したという安堵感と、それ以上の悔しさ。
その二つが同時に私の中に押し寄せてくるのが分かる。
この女は、いや、この女と、そしてこの女でさえ勝つことを、戦うことさえも放棄した女………ヘネシー。
私はこの二人にはどうしても勝つことができないのかという苛立ちが胸中を駆け巡るが、そんなことは今に始まったことではない。
別に力で勝てずとも私がユーリを最も愛していることに変わりはないのだ。
ゴリラじゃないんだし力だけで恋愛関係になれると思うな白ゴリラ。
「うむ、ほかのところも決着といったところか」
キルキスがそういうと同時に、先ほどのキルキスの一撃で手持無沙汰になっていた連中が攻撃に加わり、ほかの場所で戦っていたナンバーレスたちとの闘いも決着がつき始めていた。
シグナトリー率いるバングの騎士団連合はシグナトリーを中心とし、それ以外は徹底的にサポートに回ることで彼女の戦闘力を最大限に発揮し、古代種を打倒していた。
ビターバレー冒険者連合は各々の戦い方を、各々の邪魔にならないように展開し、やはりその中心にいるのはあの吸血鬼、エヴァン・ウィリアムズ。
剛力無双。無限の体力。圧倒的な膂力とともに、無限の回復力を持つエヴァンは例えるならば"小さな古代種"とでもいったところか。
そしていつか見た時空間を操作する個性を扱う女。その者は統制協会との連携を駆使し、私を抜けば一番の辛勝ではあったが、それでも安定感のある戦いであった。
あの時対峙した、払えば吹き飛んでしまいそうな脆弱な存在とは比べるまでもなく、どこか強い何かを瞳に宿した姿だ。
そして、この中で最も迅速に、そして圧倒的に敵を排除したのがストラス・アイラだ。
あの龍の小娘は、矮小で、脆弱で、ヘネシーの後をついて回るだけの目障りな存在だと思ったことは一度ではない。
しかし、いつからか、あの女は強大で、強靭な存在になっていた。
古代種と真正面から殴り合い、切り裂き、食いちぎり、焼き払い、そして仕舞には殺しつくすなど、あの時代のストラス・アイラには不可能だった。
だが、この女はユーリがいない間ずっと、あの女の、ヘネシーの真似でもするかのように、ただ己の研鑽を続けていた。
それが今、実ったのだろう。
ナンバーを持たないとしても、古代種を正面からねじ伏せるほどの力を身に着けるに至ったのは、生半可な努力ではないことは想像に易い。
ただ待つことしかできなかった私や、すべてに絶望し、自らを封印したキルキスとは違い、ひたむきに走り続けた結果、その集大成。
古代種を討伐しつつ、統制協会の者たちが周囲の露払いを行っていたおかげで、キルキスの一撃で殲滅された後に召喚されてきた雑魚に戦闘を邪魔されることはなかった。
「さて、露払いはあの者どもに任せるとして、私たちはユーリの加勢に―――」
キルキスがそういって一歩踏み出したが、何かに気が付いて足を止めた。
「どうしたのかしら? 早くユーリの加勢に―――」
「いや、どうやらそういうわけにもいかないようだ」
キルキスの視線の先には、黄金の甲冑に、黄金の剣を携えた、黒髪黒目の男がそこにいた。
「―――初めまして。私の名はユゥリィルム。申し訳がないけど私は君たちを倒さなくてはならないらしい。今すぐこの場を立ち去ってくれるのなら私も君たちを傷つけなくて済むのだけど、どうにも君たちの瞳を見るに、そうはいかないらしい」
その男はそう言い、朗らかな笑みを見せた。
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