第390話

 マリポーサさんに案内されるままに転移陣の上に乗るとすぐに周囲の景色が一瞬にして変わり、先程までの和室とは真逆の、石造りで薄暗い場所に移動させられた。


「この奥の部屋のはずです!」


 マリポーサさんがそう言い先導しようとするのを彼女の腕を掴んで止める。

 驚いた様子の彼女がこちらを見てきたが、その直後、そのまま彼女が進んでいればいたであろう場所に剣が突き刺さった。


「―――どうやら先回りされてたらしいな」


「警告。今回の相手は今までの敵と一線を画する戦闘能力を持ってます」


「あぁ、それは何となく分かる」


 ブレアがゆっくりと戦闘態勢に入るのを見ながら、俺も剣を取り出す。


 幸いにもここは謁見の間と同じくらいの広さがあり、広さで言えば30メートル四方の巨大な空間だ。


 その中心にいつの間にか三人の人影があり、おそらく真ん中の男は俺より強い。

 ブレアと同等か、それ以上だろうというのがわかる。

  

「真ん中のやつ、行けそうか?」


「表明。本機の全てを持ってして撃破します」


「んじゃ俺も“命がけ”でお前を守るとしますかね」


 こちらにはマリポーサさんとシーバスもいるが、あの二人では“そもそもの土台”が違う。

 一定以上力の差があると数の優位は意味をなくす。


「シーバス、てめえはその嬢ちゃんを命がけで守れ。千器を継ぐんだろ? だったらそれくらいやってみせろ」


 その言葉にシーバスは無言ながら大きくうなずき、武器を構える。

 マリポーサさんも戦う様子だが、あまり役に立ちそうになり。


「マリポーサさんは私を守ってくださいね」

 

 しかし、すかさずネヴィスさんがそう言ってくれた。

 彼女もおそらくここが分水嶺だということがわかっているのだろう。

 彼女の参戦で変に計算が狂ってしまっては勝てるものも勝てない。


 それをわかっての発言だろう。


「申し遅れた。俺はパンペロという。こっちは俺の弟のアニバサリオだ。東方の邪鬼といえばわかってもらえそうか?」


 そういった二人は確かに似ていた。

 しかし、その風体はとても普通の人間のものではなかった。

 

 弟の男は首に継ぎ接ぎがあり、まるでそれは一度首を切断でもされたことがあるかのようだったが、しかし、兄のパンペロの方はもっとひどかった。

 全身が継ぎ接ぎだらけで、フランケンシュタインと言われても納得してしまう程の怪我を追っていた。


「こっちの無口な者はオルトモアという魔族だ。我々三人で貴様らを始末するのが今回の仕事だ」


 そう言い放ったパンペロと名乗る男。隣りにいるのアニバサリオからはこの中で最も強力な力を感じる。


「注意。真ん中なの男はおそらく異能持ちだと推測できます。因果律の乱れを検知いたしました」


 異能持ちか。これは一筋縄じゃいかねえな。


「俺が前に出る。ブレアはあの男の異能を探ってくれ」


「了承。かしこまりました」


 ブレアがうなずくと同時に、俺は三人に向けて駆け出した。

 剣を両手に出し、それを一気に振り抜く。


 魔力を纏った斬撃は通常の斬撃とは異なり、刀身の数倍の大きさの斬撃を放つ。


「フンッ!」


 しかし俺の繰り出した斬撃はパンペロという男の一閃で霧散し、その隙きを縫うようにアニバサリオが俺の懐に潜り込んできた。


「―――不運だったな」


「はは、そりゃお前さんがな!」


 俺の個性である武想は体から武器を自由に作り出すことができる。

 作り出す場所に縛りはない。


 俺は懐から槍を作り出す。

 作り出すと言ってもそれは一瞬で、感覚としては射出されるようなものだろう。


 低い姿勢のまま飛び込んできたアニバサリオの胸辺りに向け突き出される槍。しかし、距離を作るために後退したのがまずかったのか、踵が石畳に取られ、胸を確実に捉える軌道だった槍はアニバサリオの頬をわずかにかすめるだけになってしまった。


「こういうことだ」


 ゆっくりと後方に倒れる中、アニバサリオの冷たい視線とぶつかる。


 ―――やばい。そう思ったが、アニバサリオの剣が振り降ろされる前に、何かに気がついたように飛び退いた。


「―――助かった」


「報告。異能が判明いたしました」

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