第391話

「そいつは僥倖……んであいつの異能は何なんだ?」


「報告。“運”を操作するものだと想定してます」


「厄介極まりねえな」


「共感。全くそのとおりです」


 ブレアとそんな話をしていたのだが、俺達の足元に魔法陣が一瞬で出来上がり、そこから炎の柱が吹き出してきた。

 ギリギリのところで回避に成功したが、この炎は食らったら相当やばい。


 俺達英雄は本来この大きさの炎程度で怪我を負うことはない。しかし、異常なほどの魔力密度で作られた炎であればその限りではない。


「三人全員やべえな」


「回答。そうですね。このままだと勝率は21%ほどになります」


「まあそれでも勝つしかねえんだけどな」


 そうは言いつつも俺は盾を作り出し、ブレアは全身に液状の金属をまとわせ始める。


「―――来るぞッ!」


 オルトモアの放った巨大な火球が俺の盾と、周囲にバラ撒かれる熱気をブレアが半円状に展開した金属の膜で背後に居るティーニたちに熱気が襲いかからないようにする。

 

 俺の盾では大きな範囲の攻撃を防ぐことができない。だからこそ攻撃を受ける割合を少しずつブレアに任せていき、俺が守る範囲が必要最低限になった瞬間、炎の中を逆流するように駆け出す。


 そのまま炎を吐き出している男との距離を潰し、盾を持つ方とは逆の手に作り出した取り回しのよい武器を振りかぶる。


「―――ファンブル」


 しかし、振り下ろそうとした瞬間、俺の手の中から武器がすっぽ抜けてしまい、男に攻撃を当てることさえできなかった。

 それどころか、俺の隙きを見逃さず、炎が晴れた瞬間に俺の両サイドにはトマホークと巨大な剣を振りかぶる二人がいた。


「マジか、よ!」

 

 間一髪のところで作り出した大盾で二人の攻撃を防ぐことはできたのだが、その衝撃をいなすことはできず、俺の体はパチンコ玉のように後方に吹き飛ばされてしまった。


「―――報告、加勢します」


 しかし、後方からこちらに向かってきていたブレアが吹き飛ばされる俺の手を取り、回転することで吹き飛ばされる勢いを利用し、俺のことを再び三人の元に投げ飛ばした。


「ぎゃぁぁっぁああッ!!!」


 腕が千切れそうになるほどの勢いで、更にブレアの生み出した遠心力と腕力による加速を上乗せした俺は悲鳴を上げながら“アイテムボックス”からとある武器を取り出し、三人に向け振りかぶった。


 俺の行動を即座に察知したパンペロとアニバサリオの二人が俺の攻撃を迎え撃つべく前に出る。

 その背後ではオクトモアが再び魔法詠唱を始めているのが見える。

 

 あぁ、こうなりゃ一か八かだなちくしょう。


「くらいやがれ、エクスプロージョンッ!!」


 攻撃を合わせてくる二人に向かい、俺は武器を振り下ろす。

 この武器はアーティファクトであり、起動の詠唱とともに振り下ろせば指向性をもった爆撃が相手に襲いかかるというもの。

 

 流石にいきなり県が爆発すればパンペロとアニバサリオでも反応が遅れてくれたようで、俺の剣がアニバサリオの胸を浅く斬りつける。

 

「貴様ァァァ! 貴様程度の雑魚がこの俺に―――」


 一瞬呆けた表情をしていたアニバサリオだったが、自身の胸に奔った傷を手で拭い、その手についた血を視認すると、彼の表情はみるみる真っ赤に染まっていく。

 そんな事を横目で見ながら、冷静に俺に切り替えしてきたパンペロの攻撃を捌きながら距離を取る。


「警告、油断大敵です」


 顔を真っ赤にしながらパンペロと鍔迫り合いを繰り広げる俺にアニバサリオが突っ込んでくるが、その顔面に―――いや、体の側面すべてに巨大な鈍色の拳が突き刺さり、アニバサリオが吹き飛んでいくのが横目に見えた。


「アンタも大変そうだな」


「才能だけなら俺の数十倍上なんだが、あれは少々短慮がすぎる」


 敵であるパンペロと話し合いながら何度か刃をぶつけ合ったところでオクトモアが再び巨大な炎の膜を展開し、俺とパンペロの応酬は一旦終了となった。


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