第387話

 なぜここにいきなり兵士がなだれ込んできたのか。

 それは神崎がここに残っていた理由でもあり、“味方の認証”を持っている人間がいない状態で謁見の間に認証を持っていない人間が入ると自動的に詰め所にいた兵士が転移させられてくる仕掛けがなされていた。

 

 それ以外にもこの部屋には様々な認証を用いた仕掛けがなされており、味方の裏切りに向けたものなども想定されていたからこそ神崎はユーリの到着を待っていた。


「とりあえず抜けるぞ!」


「了承。前方の敵を排除いたします」


 ブレアがそう言うと同時に右手が魔力砲に姿を変える。

 そこに魔力が集積し、臨界点を迎えた瞬間、更に別の者たちが謁見の間に乱入してきた。


 とても戦うための格好には見えなかったが、しかし俺達が先日まで滞在してたあの領地内でアイツらと似た格好をしていた女は俺とブレア二人がかりでも倒せないくらいの化け物になってた。

 もともとは俺と打ち合えるくらいの実力しかなかったはずが、気がつけばブレアを追い抜き、俺とブレア二人がかりでも正直勝てないレベルまで強くなっていた。


 ぶっちゃけ何が言いたいかと言えば、あの格好をしている女は苦手だ。

 あの領地にいた“あいつの奴隷”は目が完全にイッちまってた。

 というか顔が怖い。強大な敵と相対したことも何度もあるが、あれは別物だった。


「お話は伺っております!」

「皆様は速く茶室へ!」

「ここは我々が食い止めます!」


 ぶっちゃけ食い止めてもらう必要もなさそうなレベルの相手だが、せっかくの行為を無駄にすることも無いし、ブレアのあの一撃が放たれてたら間違いなく皆殺しになってただろうし。


 ここはいきなり乱入してきたケモミミメイド軍団の皆さんにお願いすることにした。


「任せたぞ」


「はい! 茶室の近くはリアリーゼというメイドが通路を確保しております!」


 どうやら相当なお膳立てをしてもらっているらしいな。俺達の動きは千器に話してないはずなんだが、あのガートという男のことと言い、どうにも動きがバレちまってるっぽいんだよな。


「まぁ、バレてももう良いか。星穿ちを止めることが俺らのミッションだしな」


「肯定。本機たちで星穿ちを停止させれば戦局はかなりこちらの有利になります」


「それもそうなんだけど、星穿ちは止めるだけじゃなくできれば“掌握”してほしいのが本音だわ」


 俺とブレアの会話にネヴィスさんが割り込んできた。


「どういうことだ?」


「星穿ちを使わせないことは最低条件です。しかし、最悪のケースになった場合、“こちらが”星穿ちを使えるようにしておきたいのです」


「そもそも、星穿ちって何なんですか」


 俺達の会話にシーバスが更に入ってきたが、どうやらあまり詳しいことを説明していなかったようだ。

 移動しながらにはなるが少し説明しておくか。


「千器の武器の殆どがアーティファクトなのは知ってるか?」


「はい。有名な話ですし」


「なら話が早いな。そのアーティファクトの整備や修理は誰がやってるかってのは知ってるか?」


「……聞いたことないですね」


「まあそりゃそうだろうな。表向きの関係は最悪の連中だしな」


 あの戦争とも言えない戦いの後から表立っての交流はなかったはずだしな。


「アーティファクトの維持、つまり使えるものを使える状態で保管するのは魔王と呼ばれたマッカランってやつの仕事でな、そもそも“使えない状態”のアーティファクトの修理とか、旦那の装備の半分以上を作成したのはマキナの主……リズ・モアの作品なんだ」


 マキナの主、リズ・モアとは、完全自律思考を体現したアーティファクトの名称だ。しかしまぁ、そのデータの構築や組み上げを行ったのがそもそも千器なわけで、またたく間にマキナの都を支配下においちまったやべえアーティファクトだ。


「英雄工房のリズと言えばまあ聞き馴染みはあると思うが」


「英雄工房っ!? 俺達冒険者からすれば“成功者の証”って言われてるあの英雄工房の!?」


 あまりの性能とあまりの金額、そしてブランド力によって英雄工房なんて言われているが、本当はリズの趣味部屋という趣味で始めた鍛冶屋から始まったものだと聞いている。


「そのリズ・モアが千器と一緒に複数のアーティファクトを組み合わせて作成した“王討伐用兵器”が星穿ちってわけだ」

 

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