第386話
「……あぁっと……もう話は……ついたか? こっちも……時間がない」
ネヴィスとスペイサイドたちが話し合いを行っていた背後にいつの間にか男が立っていた。
その男はまだ何もしていないという状況ながらすでに疲れを表情に出している。
「ガートさんですね」
「あぁ……旦那に言われて……迎えに来た」
常にくたびれた様子ながら、スペイサイドの目にはそんな彼であろうと隙を見言い出すことさえできないほどに力の差があった。
「それでは参りましょうか……王城に」
ふわりと笑みを浮かべながらそう言い放ったネヴィス。どういうことなのか未だに話を理解できていないシーバスとティーニだったが、シーバスはその男の名前に聞き覚えがあった。
記憶の中にあるその男が出てくる“物語”と、目の前の男の風貌を照らし合わせ、そして―――
「ガガガガガガ、ガートさん!? ガートさんってあれですよね!? 千器のパーティーだったあのガートさんですよね!!??」
シーバスは思わぬところで“あの”パーティーのメンバーに出会ったことで、アイドルに出会った少女のように目を輝かせ、犬のように尻尾を振りながらガートにすり寄っていった。
シーバスは先程までの女性―――ネヴィスの発言にイマイチ信憑性を持てていなかった。
なぜなら、今までにも多種多様な“千器関係の会”を見てきているので今更被害者の会と言われても“そういう人達”という認識しかなかったのだ。
しかし、実際に千器と同じパーティーにおり、“物語”にも幾度となく登場するその人物が目の前に現れたことにより、彼のテンションはすでに青天井に上がり続けていた。
その要因としてはもちろんガートの登場もあるのだが、そのガート本人の口から“旦那”という言葉を聞いてしまったものだからもう堪えることもできなくなってしまった。
ガートがそう呼ぶ人間はただ一人。魔族の王である魔王が伴侶と決めた男、千器。
だからこそ彼はマッカランの意を汲み、そう呼び続けている。
つまりだ。その言葉が、その発言自体が“彼”の存在と、その帰還を裏打ちしているのだ。
「あぁ……まぁ、そうだけど……」
「やっぱりそうですよね! あの俺、その、ずっと千器の話を読んでて!」
「あぁ……」
かなり煙たがっている様子のガートに対し、シーバスはそんなことお構いなしと言ったようにグイグイ距離を詰めていく。
流石に鬱陶しさが限界に達したのか、ガートは能力を使ってシーバスを納屋の外に移動させた。
「流石に……初対面でこれは……キツ……」
ガートはそう言うと肩をガックリ落としながら額の汗を拭った。
「さっさと……移動を……開始したいんだが……」
続けてガートがスペイサイドたちにそう言うと、スペイサイドは少し待ってくれと言いながら外に出されたシーバスを回収し、突然外に出されたことで困惑しているシーバスをともらいガートの作り出したゲートで移動を開始した。
ゲートをくぐり抜けると、景色は納屋の中から一変し、真っ赤なカーペットが敷かれ、玉座の近くに二つの遺体が転がる場所に出た。
「ここで……別行動……だ……」
「あぁ、ありがとな」
スペイサイド達を送り届けたガートは即座に自身が作り出した別のゲートを潜りいなくなってしまった。
「報告、どうやら謁見の間のようですね」
ブレアは即座に自身のデータベースと居場所を照合し、ここが謁見の間であることを割り出した。
「――――来るぞッ!」
スペイサイドがそう言った直後に謁見の間の扉が勢いよく開かれ、兵士がなだれ込んできた。
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