第385話
「警告、王都付近にて多数の魔物の反応を確認。並びに、探知区域に“穴”が5つ空いていることからおそらく……」
「あぁ、そうみたいだな……こいつはかなり厄介……どころの騒ぎじゃねえな。大丈夫なのか旦那は」
「進言、この“手紙”の内容が正しいとすればおそらくまだ大丈夫だと思われます」
ブレアは何でこの手紙のことをそこまで信用してるんだか。
まぁ確かにここまでこの内容通りに話が進んでるんだが、俺としてはどうにも100%信用ってわけには行かねえんだよなぁ。
色々考えんのもめんどくせぇし聞いてみっか。幸い時間にもまだ余裕がありやがるみてえだし。
「なぁブレア、どうしてお前はその手紙をそこまで信用してるんだ?」
「? 困惑、確かに本機はどうして……これから先のことは計算上では5%未満の可能性でしか起こらないと結果が出ているのですが……」
どうやら本人もわかってねえんだなこれ。
しっかし、俺よりも“信用”とか“感情”みてえなもんには疎いはずなんだがどういうわけだ?
もしかしてこれも誰かの個性で操られてるとかじゃねえよな?
考え始めるとどんどん不安な可能性が浮かび上がってくるんだが、なぜかこの手紙からはどうにもそういう“悪意”みてえなもんは感じ取れねえんだよな。
ブレアは理で動くが、俺はそういう理だけじゃ推し量れねえところを汲み取ってきたわけだが、今回は俺より先にブレアが俺の役目をやっちまってる。
本来ならこれはかなり危険な状況なんだろうな。
そんな事を考えていると俺達の方に接近してくる気配を感じた。
「注意、こちらに何者かが接近してきます。気配からして英雄ではありません。接敵後0.02秒で無力化できる程度の力量です」
どうやらめちゃくちゃ雑魚がこっちに向かってきてるらしい。
しかし何でまた、王都のハズレにある小さな村のこんな納屋なんかに来やがるんだ?
手紙に書かれてる“やつ”が来るにはまだ時間もあるし、何か企んでやがるのか?
「―――接敵、来ます!」
近づいてきた気配が納屋の扉を開けた瞬間、俺とブレアは侵入者の死角に回り込み、刃を急所に軽く触れさせ、俺達の話を聞いていたシーバスはあの嬢ちゃんを守るように位置取っていた。
「―――謝罪。失礼いたしました」
俺よりも先にそういたブレアが早々に武器を収める。
流石に両手上げて敵意も見せない女相手にこれはやりすぎかもな。
そう思って武器を下ろそうとして、やめた。
思い出したんだ。あの男の動きを。そして目の前の女の今の動きはそれに酷似していた。
この女は俺が動くより早く、“次の動作”を開始していたんだ。
「―――アンタ何者だ」
旧統制協会を一人で叩きのめし、蹂躙したあの男と同じ動き。警戒を安易に解いていい相手じゃねえ。
そう思うと途端に口から出る言葉が重く、低いものになってしまう。
「手紙の差出人だと言ったらどうしてくれるのかしら」
「何で手紙の事を―――」
「自己紹介がまだでしたわね。千器被害者の会終身名誉会長のベン・ネヴィスと申します」
「………」
「え、あれ? 聞こえてなかったかしら……? オホン、ぇえ、自己紹介がまだでしたわねっ! 千器被害者の――――」
「あぁ聞こえてる聞こえてる! 聞こえてるからもう大丈夫だ! 俺が固まっちまってたのはだな、えっとその、なんてんだ……その、被害者の会ってやつのことだよネヴィスさん」
俺の言ったことに今更ながら赤面し始めて「やだ私ったら……何でこういうところは見えないのよ! ほんと微妙な個性で嫌になっちゃうわ……」とか一人で言ってるネヴィスさん。
「えっと、おっほん……その手紙はですね、私の“未来視”で見ることができた未来と、“最悪の未来”を回避した未来の方法なのです!」
なんだろうな。凄え人なんだろうけど、あいつの関係者ってことにすげえ納得した自分がいる。
千器関係者の共通点……人の話を聞かない+自分の話したいことを話し続ける。
正しくこれだわ。
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