第382話
「えっと、大塚?」
「ちょっと黙れよ今話しかけんな大事なところなんだよ!」
「……」
案の定神崎が突っ込もうとするも、ユーリのマジギレによってあえなく撃沈。
先程までのイケイケムードはどこへやら。全員が冷めた目でユーリを見つめていた。
「あぁ!? うるせえな早く来いって! それどころじゃないの! そう、そう! だからお願いね! はいはい、んじゃまた、はーい、はいおつかれ、おつかれー」
ピッと音がして電話が切れると同時にユーリの足元から闇が溢れ出した。
ドロドロと重苦しい空気感を吐き出すその闇を見て友綱はマッカランの事を思い出してしまう。
あれ程までに闇という言葉がふさわしい存在は見たことがなかった友綱だったが、今回の闇はどこか違う。
闇の噴出が最高潮に達し、間欠泉の如く一気に立ち上った時、ユーリの目の前に一人の男が立っていた。
「久しぶりだな“ガート”」
「あぁ、またはめられたのかオレ……」
「とりあえずさ、他の“魔族”も全員呼び出してくんね?」
余裕そうに見えるユーリだが、内心は大いに焦っていた。
今この場にいる戦力では正直“全く足りない”のだ。
ガートは諦めたように大きなため息を吐き出すと同時に地面に漆黒の剣を突き立てた。
その直後、足元に真っ黒い空間のようなものがいくつも出現し、そこから先程出てきた浅黒い肌をした男と同じ肌を持つ者たちが続々と現れる。
そこから出てきたのは総勢で200人ほど。しかしその誰もが英雄に匹敵する力を持っていることがわかる。
「オッケーんじゃ次だな」
すでにユーリはなりふり構わない。どんなことでも、どんなものでも使い生き残る。昔そうしていたように。
「チョコチ、エヴァン、ババア―――え、」
呼び出す瞬間、ナニカおかしな感覚を覚える。
想像以上の“重さ”を感じて声を上げてしまったユーリだが、眼前に広がる光景を見た瞬間、その“疑問”の答えがわかった。
「お前らなんで……」
「ユーリ様、バング騎士団、並びにバングの冒険者“全て”召喚に応じ馳せ参じました」
「ビターバレーの冒険者一同参上したのだよ!」
眼前にはバングの騎士団、冒険者などのバングの戦力の全てが、エヴァンの背後にはビターバレーの冒険者連中がニヤニヤしながらこちらを見ている。
しかし、それよりも遥かに強大な力を持ち、やばい連中がいた。
「うむ、千器……漸く貴様に恩がえ………借ぁり! 借りを返す時が来たのだな! ……さぁ、我が動かせる全ての戦力を連れてきた!!! 存分に“使いこなす”がいい!!!」
ストラス・アイラと言えば、現統制協会では最古参であり、戦闘討伐部の管理をしている……各街などに常駐する者たちを除いた全ての構成員を動かしたということだった。
戦端が―――開かれた。
どうしてコイツらがここまでの準備を……そんな思考が浮かび上がるも、仮説を立てるより速く次の奇跡が起こったのだ。
「お兄ちゃん!!!」
「お兄さん!」
魔物の群れの中から、そんな声が聞こえてきたのだ。
付き合いは短かったがそれでも忘れることなどできないあの二人の声。
「リベット!? それにタレットも……お前らまでどうして……」
「お兄ちゃん! お姉ちゃんが“森王の力”で準備したの!」
「お兄さん! 紫結晶を設置した私の“カスクツリー”が完成しました! 今からここは、あなたの空間です!!!」
言われた瞬間、ユーリの全身を突き抜けるような全能感に襲われる。
そして視界の隅、把握可能な範囲ギリギリのところに展開されている紫結晶とそれを支える巨木達。
だが、当然そんな物を魔物が許すわけもなく、ユーリに駆け寄ろうとする二人と、周囲に突如現れた木々を魔物が一斉に攻撃し始める。
「時よ―――」
無駄にユーリの耳元でつぶやかれたその声と同時に、ユーリの視界からリベットとタレットが消え、次の瞬間には隣から二人の息遣いを感じた。
「待たせてしまったかい?」
「お前も……」
時空間を操り、魔王を討伐せし勇者。京独綾子がそこにいた。
「ふふ、私だけではないよ」
時空の覇者が指さした方向に視線を向ければ、そこには―――巨大な亀がいた。
それも一匹や二匹じゃない。少なくとも30に及ぶ巨大な亀の魔物が列をなし、紫結晶の取り付けられたカスクツリーを守るように立ち並んでいた。
「だぁんなぁぁぁ! うちのハニーばっかり旦那の役に立つなんてずるいんですよ!! オレだってねぇ! やるときにはやるんですからぁぁあああ!」
「ハゲブロ……」
「カルブロですぅぅぅぅぅぅうう!!!」
あいつ、よく聞こえたな、なんて思いながら頬をかくユーリだが、紫結晶の力で強化されたユーリの個性がその答えにたどり着かせた。
「はは、たまきにミルズまで来てやがるのかよ……おいおいほんとに、どうしちまったってんだこれ……」
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