第381話

 月虹に集まる力が臨界点を迎えたのか、周囲にプラズマのようなものがほとばしる。

 それを見たユーリは笑みを深くすると、魔魔物のいる方向に腕を伸ばす。


「合陣術:月蝕!」


 ユーリの目の前に移動した月虹の色が一瞬にして真っ黒に染まる。

 禍々しい力と共に溢れ出す空間がユーリの突きだした腕を飲み込んだ。


 その瞬間、周囲に今まで以上のスパークがほとばしり、地面は砕け散り、ユーリに襲いかかろうとしていた魔物たちでさえ生存本能が邪魔をしてこれ以上歩みを進めることができなかった。


「ウォぉぉぉぉおおおっ!!!!」


 ユーリの声に呼応するようにスパークを放つ黒い空間。

 その空間がユーリの手首を飲み込み始めた辺りで、ついに魔物たちがユーリに襲いかかる。


「邪魔は―――」


「―――させんッ!!!」


 しかし、ユーリと魔物の間に滑り込んできたのは静観を貫いていたはずの聖十字と黒鉄の団長。そしてユーリの背後からは二つの騎士団の面々、勇者、ホモ一行が向かってくるのがわかる。


「済まねえ、繋がるまで手間取っちまって…時間稼ぎを頼む!」


「任されました。タイタンブロウ」


「黒鉄っ! 総員Z-7でいく! 派手に暴れろ!」


 巨人の力を宿した拳によってユーリに迫っていた魔物たちはミンチのように潰され、その隙きに黒鉄の団員が一斉に動き出す。

 

 人間相手や守ることに特化している聖十字は魔法使いたちの護衛に周り、前線ではあのユーリを持ってして“基地外キチガイ”と言われるほどの荒くれ集団が魔物を殺し回る。

 一見して粗野な見た目に言動の彼らだが、その戦いは見るものが見れば洗練され、無駄を削ぎ落とした“機能美”さえ感じるほどのものだ。

 それを理解できるレベルのものはこの場にはスコシア以外いないことが残念だというように、彼女は『よくわかってないけどなんかすげえ』みたいな顔してる友綱を見遣った後に少しだけ肩を落としつまらなさそうにそっぽを向いた。


「さて、アタシらも動くぞバカ弟子ッ!」


「はい! 巣鴨さんは後方で聖十字の人と合流、坂下は俺達と一緒だ! 行くぞ!」


「了解しました! 皆さん、どうかご無事で!」


「誰にいってんのよ! アタシいま最強なんだから!」

 

 友綱パーティーが魔物にぶつかる瞬間、スコシアがユーリから渡された大太刀を居合のようにして抜き放つ。


「―――滅剣」


 その瞬間、友綱の50メートル前方に存在する全ての魔物が消滅した。

 正確に言えば“肉眼で観測不可能なレベルで切り刻まれた”のだ。

 

 友綱も、坂下もその剣閃を視認することさえできなかった。


「眞金千切りがアタシの手にあるんだ。他の十二天剣だろうと今のアタシにゃ勝てやしねえ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべたスコシア。その攻撃の凄まじさに友綱と坂下が目を見開く中、神崎は驚くことはなく、スコシア同様に笑みを浮かべていた。


「さて、僕も行くかな。皆来てくれ」


 瞬時に神崎の背後に現れる聖剣達。その聖剣がまばゆい光とともに、内包する魔力を神崎に送り込み始めた。


「神聖剣【ジャッジメントブレイバー】」


 神崎の手に握られている剣は実体を持たない剣。

 背後の聖剣たちから集められた強大な力を凝縮したものだった。

 それを振り下ろした直後、地面をえぐり取りながら巨大な光の柱が魔物を消し飛ばしながら進み続けていく。


 威力だけで言えば先程のスコシアの一撃を遥かに凌ぐ破壊力があることが容易に想像できる。 

 しかし、それを放った神崎自身の消耗もなかなかあるようで、額から滴る汗を手で拭っている神崎の姿があった。


 その一撃が消滅するとほぼ同時に、ついにユーリの声が戦場に響き渡った。


「死にたくねえやつは下がれ!」


 上腕部分を月蝕の中に突っ込んだままのユーリがその手を一気に引き抜く。


 そのユーリの手に握られていたのは……トランシーバーだった。





「あ、しもしもー。オレオレ、え? いやオレだってば! オレのこと忘れたのか? んぁ? そうそうオレだよ。実はちょっと事故っちゃってさ―今ヤバイ状況なんだよマジーうん、うん、いやほんとすぐになんとかしないとこのままだったら俺どうなるかわかんないんだよね〜」




 ユ ー リ は な か ま を よ ん だ ! !

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