第379話

 戦いに参加したのは凡そ5000人ほど。

 つまり5000VS10万の戦いとなるわけだが、ユーリの最初の一撃によってその戦力差は5000VS8万程になっている。 

 この戦力の殆どは王都で内乱に参加していた旧王派と新王派の戦士たちだ。そして彼らは普段人間を相手に戦っているためか、戦闘能力の割に魔物の討伐能力は高くない。


 逆にギルドで冒険を生業としている者は戦闘能力に比べ魔物の討伐能力が高い。この討伐能力に関してはどれだけ魔物の特性を理解しているのかどうかが非常に重要になってくる。

 だからこそユーリの戦闘能力でも数多の魔物を討伐することができていた。

 流石にユーリほどの知識や応用力は持たないが、更に逆を言えばユーリとは違い彼らはユーリよりも恵まれた身体能力や戦闘向きの個性を有していることがほとんどだ。

 もちろん中には上位の冒険者も混ざっており、その強さは今この現場に置いて頭一つ抜きん出ていた。


「冒険者の野郎どもはやっぱこういう戦いに慣れてやがるな。戦士連中はまあ壁になってくれるだけでも御の字か」


 ユーリはそんな事を言いながら“ボス級”の魔物に止めをさす。

 ユーリは殲滅を苦手としている。最初のように膨大な時間と金、そして労力を注ぎ込んだ膨大な数による暴力であれば可能だが、それを連発などできようはずもない。

 本来のユーリのスタイルは時間を駆けてじわじわと敵を追い詰めていき、決定的な好きを見せたところで神剣の一撃を持って屠るというものだ。

 

 だからこそ雑魚の殲滅は背後の冒険者や戦士達にさっさと任せてボス級にちまちまと攻撃を始めたというわけだ。


 しかし端から見れば“この乱戦の中ボス級を討伐した千器”という認識になってしまう。

 ユーリからすれば雑魚の群れを相手にするほうが致死率が高いのでボスに狙いを絞っているだけなのだが、その通常からすればありえない思考が冒険者達とユーリにシナジーを産んでいた。


「全選択、count」


 個性の活用を使い、残りの魔物の数を瞬時に把握する。

 戦闘が始まって約20分にしておよそ1万弱の魔物が討伐されたことがわかる。

 このまま行けばこの魔物の大群は退けられる、そんな甘い考えはユーリの中に存在しなかった。


『流石ですね。まさかそんな方法で民を立ち上がらせるとは! では少し追加しましょうか』


 おそらくどこかで見ているのだろう薬屋の声が戦場に響き渡る。 

 それと同時に魔物の大群のはるか背後に恐ろしい数の気配が現れる。


「おいおい、これは想定外にもほどがあんだろ」


 ユーリは冷や汗を流しながら奥歯を噛みしめる。

 先程使ったcountから膨大な計算量による負荷がユーリの脳に襲いかかる。


 更に苦しそうな表情を浮かべながら額に手を当てるユーリは表示されたその数を見て驚愕の表情を浮かべる。


 ―――307万。


 絶望的な数字がそこには表示されていた。

 

 何が少しだ。完全に舐めていた。あいつが準備に費やした500年という時間を。あの狂った男の狂い方を。


 ただでさえこれだけの戦力差による絶望、しかし、本当の絶望はこれだけではなかった。


「古代種まで混ざってやがるのかよくそが……」


 


『さぁ、千器はこの絶対的な絶望を覆し、本当の“救世主”に至ることはできるんでしょうかね! 私とても楽しみです!』

 

 戦場には先程までの活気は無くなっており、狂ったような薬屋の笑い声だけが響いていた。

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