第378話
ハーシュの声が響く中、ユーリは魔物の集団に向け足を更に進めていた。
いつもどおりの頭がおかしくなるほどの恐怖や、これまたいつもどおりの全身の感覚が麻痺しだしそうな緊張、その全てを飲み込み、足を進める。
ユーリ自身もこの戦いを自身一人で片付けることを不可能だとわかりきっていた。
だから今自分の後ろを追いかけてくる戦士たちに恐怖や不安を感じさせまいと意地と気合だけで不敵に笑ってみせた。
『んだその顔きもちわりぃ』
「だよねぇ」
叡智の書とじゃれ合い、多少は気も紛れた頃、漸く魔物たちの姿が肉眼で捉えられる位置に現れた。
魔物の姿を確認してからのユーリの行動は早かった。
生体魔具をフル活用し、倉庫にある攻城兵器を召喚、連結の切り離し、そして再び別の兵器の召喚、これを一呼吸もしない間に100基単位で行った。
背後の冒険者や兵士達は突然現れた既存の攻城兵器やアーティファクトに目を見開き、またたく間にこれから何が起こるかを理解してその場に飛び込むようにして伏せた。
その直後、ユーリの周囲には陣による結界が貼られ、倒れ込んだ兵士たちの顔面を爆風が叩きつけた。
その威力は爆風だけでも凄まじいもので、先頭の方を走っていた一般兵士はまるで巨大な質量の何かを突如顔にぶつけられたと錯覚するほどだった。
中には今の一撃の爆風と衝撃波で吹き飛ばされ意識を失うものも現れるほどの高火力による一斉掃射が始まった。
「あぁ、世界の終わりだぁ……」
大規模な魔法戦闘を見たことない一般の人たちがその光景を見て恐怖におののいた。
しかし、流石に兵士やギルドで活躍していた面々はこうなるだろうと理解していたのかそこまでの同様は見せず、小さな声で「千器パねぇ……」などというくらいだった。
しばらく鼓膜を叩き潰すような音と衝撃が続き、漸く一段落したのか顔を上げてみれば、先程まで魔物の行軍で立ち上っていた土煙など子供が戯れに砂を空中に投げただけの児戯に思える巨大な煙が上がっていた。
幸か不幸か平野であるため風の通りがよく、すぐに土煙は腫れたが、その光景を見た兵士たちは千の武器を使いこなすという意味の一端を知ることになる。
広大な平野だった場所は見る影もないほどにクレーターだらけになっており、10万はいた魔物の内確実に2万は跡形もなく消し飛んでいたのだ。
国境線で行われる小競り合いで動員される人数はおよそ3000から多くて1万程。
都市攻略に動員されるのが2万という数字を考えれば、今のユーリの行動が如何に馬鹿げた攻撃なのかがわかる。
とは言うものの、今しがたユーリが使ったものは“消耗品”であり、同じ攻撃をもう一度やろうと思えば天文学的な金額、もしくはユーリが過去と現在で使った時間に相当する莫大な時間がかかる。
逆を言えば、それだけの時間と金、労力を使用して“この程度”なのだ。
最上位の英雄であればこの程度のことは30分もあればできるし、中位の英雄でも時間さえあれば可能なことを考えれば、“一般人からすれば馬鹿げた力”ではあるが“化け物からすると大したことはない”という結論に至る。
当然ユーリもそのことは重々承知しているが、これから先の展開を見据える限り、ここで他のアーティファクトを使い潰すのは現実的ではないと判断したのだ。
ユーリは即座に剣を構えると出鼻をくじかれ、混乱の真っ只中にある魔物たちに向かって切り込んでいく。
その姿を見て漸く他の者も立ち上がり、武器を掲げてその後に続いた。
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