第374話

『楽しいゲームになる事を期待しております』


 そう言ってウェルシュの体は爆ぜた。

 その場に残されたのはウェルシュであった肉片と、頭を落とされた第一王女、そして未だに人形のようにして動かない第二王女。


「やっぱ俺らは王都ここに誘い込まれてたみてぇだな」


「どういう事なのか説明してもらえるかな」


「あいつは500年前、俺が千器として活動してた頃から俺に付きまとって俺に相応しい“活躍の場”を作るって言ってる頭のおかしな野郎だ。まあそんなことはどうでもいい。とにかく今は第二王女を安全なところに運んで治療させるぞ」

 

 目指すは茶室。あそこであればたとえ魔物の群れに襲われても無事でいられる。

 しかし、街の連中を匿えるほどの広さはない。せいぜいが8畳ほどしかない部屋なのだ。


「あてがあるんだよね」


「任せろ最高の場所がある」


 茶室は王の血縁者であれば出ることができる。しかし、俺と“第一王女”以外で茶室の扉を外から開けることはできない。


 つまり、今の所ユーリだけがあの扉を開けることができる存在なのだ。

 おそらく薬屋もそれを知って第一王女を傀儡にしたんだろうことが予想できる。


 王城の作りはユーリにとっては自身の庭を駆け回るのと大差なく、すぐに目的の茶室に到達することができた。

 

「千器様、私共はどうしたら……」


「なんか余計なものまで拾って来ちゃったよおい」


 城内を駆けずり回った際にマリポーサと出くわしてしまい、何故かそのままマリポーサは無言のままユーリの後ろにピッタリと追従してきたのだ。

 正直ユーリ的にはさっさと逃げるか戦えるなら外でこれからやってくる魔物の波をどうにかしてほしい気持ちでいっぱいだった。

 流石にユーリでもこれからやってくる10万もの魔物の大群を個人で処理することはすでに諦めており、そのための作戦を動かしたかったのだ。


「マリリンにちょっとお願いがあります」


「はい。何なりと」


 しかし、中途半端な戦力を投入したとしても焼け石に水なのは目に見えていることからも、外で戦うことよりも更に重要な役目を彼女に押し付け……依頼することにした。


「この扉は外から開けられるのは俺だけだが、内側からはランバージャック王家の血筋なら誰でも開けられる。それを治療が終わった第二王女に伝えて“地下の陣”の再封印を頼んでくれ。マリリンはそれまでの護衛ってことで」


 これから先は時間との勝負になる。

 それだけではない。ユーリの言った地下の陣は本来第一王女にのみ操作が可能なもの。 

 そういうシステムなのだ。だからこそこれは賭けである。当然保険も残していくつもりだが、この作戦が失敗すれば確実に今王都にいる人間はすべて死に絶える。


「後これ、置いといて」


「かしこまりました」


 ユーリの話が終わるのを待っていたかのように神崎がユーリと視線をわせた。


「安心しろ、その後のことはどうであれ、第二王女は助かる。おいクソアマてめえいつまでトんでる気だ? さっさと仕事しねえと本当に捨てちまうぞ」


 先程からユーリの脚にしがみつき動かない闇の精霊を蹴り上げると、再び何度かビクビクしてから漸く起き上がった。


「そういう愛情表現も嫌いじゃないわ」


「黙れ死ね」


「酷いっ! 私のことは遊びだったのね……もう良いリスカする……」


 そう言ってどこからかカミソリを出して手首に押し当てるが……


「大塚……」


「みなまで言うな、わかってる」


 聖剣とまともに打ち合える(?)強度の闇の精霊にカミソリ程度が刃が立つわけもなく、聞いていて非常に不愉快な金属同士をこすり合わせるような音が聞こえるだけだった。


「やっぱり安物はだめね。こうなったらODするしかないわ……」


 そう言って再びどこからともなく錠剤入の瓶を取り出し、中身を豪快に飲み干し始めた。


「……」


「大塚」


「黙れ」


 しかし、闇の精霊はそもそも状態異常などに強い親和性を持っている。

 そのため体内に入った錠剤はまたたく間に無力化されただの苦いだけの物質に成り果てた。


「大塚ぁ!!!!」


「うるさいうるさいうるさーい!」


「そんな大御所ツンデレ声優のモノマネをしてもだめだ!!!」


「ちくしょうが!!! あぁそうだよ! こいつは闇の精霊というよりも病んでるんだよ! ただの病みの精霊なんだよ! だから嫌だったんだ畜生!!!!!!」


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