第373話

「いや、あの返します、ほんと、僕には過ぎたものだったみたいですごめんなさい」


「いやいや、そんな事ないっすよ、あんた聖剣の勇者とか呼ばれてるじゃないっすか、大丈夫っすよたぶん」


「ほ・ん・と・に! いらないんで大丈夫です!」


「あぁ!? せっかくやるって言ってんだから大人しく受けとりゃ良いんだよくそ!!」


「やめてッ! 二人共これ以上私のために争わな―――」


「お、大塚お前それ……」


「大丈夫これでくたばれば苦労してねえ」


 ユーリはモンテロッサ戦で使ったレーザーを闇の精霊めがけてぶっ放していた。

 しかし、その場に若干体が焦げているが、何故か打ち上げられた魚のようにビックンビックンしながら跳ね回る闇の精霊がいるだけだった。


「こいつはぶっちゃけ聖剣本体よりも硬い。安心して振り回せるぞ」


「聖剣よりそれに宿る精霊を物理的に使って戦うとか聞いたことないから!」


「勇者ってのはな、誰かの後を追いかけるもんじゃねえんだよ切り開くもんなんだよ! 自分を信じろよ!」


「じゃあもう君が切り開いた道だから僕は歩けないね!!! そういうことだから責任持ってそれを持って帰って! 後第二王女の治療もして!」


「お前どんどん図々しくなってるな!? 誰に似たんだよ全く!」


「それ間違いなく大塚と師匠だろうね!!!」


 そう言いながら闇の聖剣を押し付け合う二人。

 そしてその傍らで煙を上げながら倒れ込む精霊。

 なんともカオスな空間が展開されている。


「わかったじゃあこうしよう。俺には時間がない。この精霊は後で必ず引き取りに行くから今は第二王女の回復に専念させてやってくれ! これならどうだ?」


「嫌だね! 絶対そのまま僕に押し付ける気満々って顔してるし!」


 そんな事を言い合っていれば、突如首を撥ねられ、デュラハン状態になっているウェルシュ王が立ち上がった。


「おい、ちょっとマジで時間無いみたいだからこれは後で決着つけるぞ」


「あぁ、そうみたいだね」


 神崎も薄々気がついている。今回の件の黒幕の存在に。

 これだけだいそれた事をしたやつが、後もあっさりとやられてくれるはずも無い。

 

「とりあえずあのデュラハンに魔法ブッパしてくれない?」


「はぁ、ライトニングボルト」


 神崎は肩を落としながらウェルシュの死体に向かい魔法を放つも、その魔法はウェルシュの体を傷つけることはなく、直前に現れた障壁に遮られてしまう。


「うわぁだるいなぁ」


「勇者がだるいとか言うな」


 明らかにめんどくさそうな表情を浮かべる神崎にユーリがツッコミを入れる。

 その間もウェルシュの死体は飛ばされた頭を拾い上げ、ユーリたちに向けてきた。


『お久しぶりですね』


 ユーリはその声に聞き覚えがあった。

 マッカランの事件、キルキスの事件、そして、ヘネシーを失った事件。その全ての黒幕であり、個性でも異能でも無くただ純粋な“恒久的な不死”を体現した男。


「やっぱてめえの仕業だったか―――薬屋」


 マッカランの時にはモンテロッサの封印を解き、キルキスの時には堕ちた神と称される堕神と人間を融合させた生物兵器を世界中に解き放ち、そしてヘネシーの時は、ヘネシー単体に狙いを定め彼女を見事殺してみせた人間。

 かつてたった一人、大塚遊里という男と、千器という伝説に“傷”を与えた存在。


 考えうるすべての方法を用いて徹底的に殺し尽くしたはずの存在の声だった。


『まずはおかえりなさい。そしてまさか内乱をあんな方法で一時的にとは言え止めてしまうとは驚かされました。さすが私の敬愛する千器です』


 そして、この世界中の誰よりも“千器”を崇拝し、盲信し、狂信する男でもある。


『私は必ずあなたが戻ってくると思っておりました。なので500年、たっぷりと時間をかけて準備をさせていただきました。どうかあなたの活躍に相応しい絶望をお受け取り下さい』


 その声と同時に、立っていられないほどの巨大な地震がユーリたちを襲った。


『まず手始めにランバージャックに向けて10万程の魔物を放ちました。この絶望をどのような痛快な方法で切り抜けてくださるのか私はとても楽しみにしております』


 

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