第372話
「いいね。そういうの最っ高に燃える展開だなァおい!!!」
今までにないほどにテンションの高いユーリ。
何しろユーリはそもそもこういうお約束的な“熱い展開”が大好きなのだ。
愛する女のために戦う。そういうのが大好きでしかたないのだ。
この戦いで神剣なんて無粋な物を使う程ユーリは落ちぶれていない。
であれば、この場に相応しい武器を取り出す。
そしてその武器で目の前の勇者を打ち合う。そう思い、ユーリは生体魔具で一つの武器を取り出した。
その武器は全長で言えば150センチほどで、使い方としては間違いなく鈍器である。
ユーリにしては珍しく、刃物ではなく、鈍器。
目の前の男に報いる礼儀としてそれにふさわしい装備を取り出したのだ。
神崎もその武器の異質さに気がついたのか、目を見開き、ユーリの武器を凝視している。
「えっと、ごめん、どこから突っ込んで良いのかわからないんだけど……一応念の為確認させて? “それ”で僕の闇の聖剣と打ち合うってことでいいんだよね?」
「おう! どんと来いや!」
「ふふふ、これこそ剣精と剣、そして担い手の三位一体! この状態の私に不可能はないわ!」
「ほんっとにごめんなんだけど、ちょっと胃薬と頭痛薬だけ飲ませてもらっていいかな……ほんとに辛くて……」
大塚遊里の持つ武器から放たれる尋常ではないオーラに当てられたのか、神崎は戦う前からすでに体調が悪くなるほどのプレッシャーを感じ取っていた。
「はぁ、僕はなんでこいつと戦うことになっちゃったんだっけ……」
そもそも、この男が“まともに戦うはずがない”事を完全に忘れていた。
ユーリが手に持っているのは、150センチほどの紫色のツインテールの少女。
彼女はまるで彫刻のように気を付けの姿勢を取り、足首をユーリが持って振り回している。
そんな事お構いなしに何故か自分の事を未だに“剣”だと思いこんでいるような意味不明な言動が見られる。
「神崎、賭けをしようか」
「嫌だ、絶対に嫌だ、何があっても嫌だ」
「ふっ……お前が俺に勝ったら闇の精霊はくれてやる。だが、俺が勝ったら……」
そう言ってユーリは150センチほどの少女をホンモノの鈍器のように担ぎ上げ、一気に神崎の懐に潜り込んだ。
「闇の精霊を引き取って金輪際俺の前にこさせるんじゃねえ!!!」
「僕の話聞いてぇぇぇ!!!? ってかえぇぇぇぇぇえええええっ!?!?!?!?!?」
振り下ろされる少女。
あまりに唐突な出来事に神崎はつい闇の聖剣で振り下ろされた少女をガードしてしまった。
ガキィィィィィイイン。
「え、え、大塚、待って、ねえ待って、なんで女の子から金属音がするの!?!?」
ガキィィィィィイイン。
ガキィィィィィイイン。
ガキィィィィィイイン。
ユーリが少女を打ち付けるたびに響き渡る金属音。
神崎の脳みそはすでにキャパオーバーだった。
顔面、腹、肩、腕、様々なところを叩きつけられ、聖剣とぶつかるたびに金属音が轟く。
それどころか、何故か少女と聖剣で鍔迫り合いになり、少女の腰辺りから火花が散ってる。
早々に理解することを諦めた神崎はもう全てがどうでも良くなっていた。
なんだこれ、なんなんだこれ、と頭の中では多種多様な疑問が吹き出してくる。
それと同時に、“あ、こいつについて真面目に考えても無駄なんだな”という感情がとてつもない勢いで溢れ出してくるのを感じる。
「あはは……はぁ、もうどうでもいいやぁ……あはは」
まるでトリップ中のヤクチュウのように力のない表情になった神崎は目の前の少女に闇の聖剣を叩きつけた。
「うわぁぁぁやられたー! よし、その棍棒(闇の精霊)は今日から君のものだ返品交換できないけど後は頼んだぞ」
そう言って全く痛くなさそうにゆっくりと転んで少女ハンマーを神崎にぶん投げるユーリ。
しかし、少女はまるで途中から魔法が解けたかのように普通の人間然とした動きで着地すると、慌てた様子で倒れたユーリに駆け寄っていく。
「お願い捨てないで! もう私にはあなたしかいないの! 本当よ! 何でもするからお願い!」
「うるっせぇんだよさっさと剣に帰れよ! ってかなんでお前俺の方に残ってんの? 何勝手に剣から出てきてくれちゃってるの? 意味わかんねえんだよてめえのせいで俺がどんな目にあったかわかってんのかクソアマァ!!」
ユーリが怒りの形相で少女の顔面を鷲掴みにしているのだが、何故か少女は恍惚の表情で下半身がビクビクしている。
それを見た神崎は思った。それはもう心の底から思ったのだ。
「うわぁ、本気でいらねえ……」
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