第371話

『そんなことはどうでも良くてだな! 俺様が言いてえのは……てめえには歴史上でもぶっちぎりの化け物だった神王を倒した俺様が付いてるんだ……何も心配なんざいらねえよ……と、ついたみたいだぜ』


 珍しく素直な言葉を受け、ユーリは今の自分がどれだけ酷い顔をしていたのか漸く理解した。


 言動は変わらずとも、溢れ出す様々な感情がニヤニヤした顔を貼り付けているユーリから漏れ出してしまっているのだ。


「はぁーあ、まさかてめえに諭されるとはな〜お兄さん嫌んなっちゃう」


 先程同様の鋭さを持ちながらも、いつものふてぶてしさを取り戻し、ただ鋭いだけではない視線を取り戻したユーリは目の前の巨大な扉に手をかける。


 この先にウェルシュ王がいる。

 黒鉄と聖十字を動かすタイミングや、内乱を止め、腐れ貴族を何人か始末して王城から外に兵を出させて手薄にさせたり、本当に面倒なことが多かった。


 しかし、それもこれも全てこの一手で終わる。


 扉を開け放つと、そこは謁見場だった。

 大臣などはおらず、玉座にウェルシュ王が腰掛け、その隣に第一王女、第二王女が座っているのがわかる。


 そして、謁見場の真ん中で、こちらに剣を向けている男。その男こそ、聖剣の担い手であり、全ての聖剣を束ねし勇者―――神崎刀矢だった。


「本当に来るとは思ってなかったよ」


 どこか悲しそうにそういう神崎。しかし、悲しそうな反面、どこかワクワクしているようにも見える。


「俺もまさかお前がそこまで馬鹿だと思わなかった。気がついてるんだろ?」


「もちろん。だから……」


 そう言うと、神崎は全ての属聖剣を自身の背後に展開させ、手には闇の聖剣を握り、第一王女を頭から真っ二つに両断した。


「第二王女は僕が救う」


 切り裂かれた第一王女から血は出なかった。

 しかし、娘が両断されたというのに、姉が両断されたというのに、ウェルシュ王と第二王女は眉一つ動かさず侵入者であるユーリを見つめていた。


「大変だったんだ、ここまでのシナリオを組むのが。僕が彼らの味方ってプログラムされた状態で、誰かがここまで攻め込んで来てくれるなんてほぼ不可能なシナリオだったからね。だけど、“ほぼ不可能”程度なら覆してくれる友人が僕にはいた」


 そう言うと今度はウェルシュ王の首を撥ねる神崎。

 ユーリもそれを止めようとはしなかった。

 むしろ、自分自身の手でそれをやりたかったとさえ思っていたのだ。


「最初はすごく疑ったよ。でも、第二王女がわざと洗脳をわかりやすく掛けてくれたおかげでいろんなことを知れた」


 そう言ってすでに壊れかけてしまっている第二王女に視線を向ける神崎。

 第二王女も表情こそ人形のように動かないが、その目からは涙が流れていた。


「これでこの内乱はおしまいだ。だけど、僕にはもう一つやらないといけないことがある。大塚、君ならわかるだろ?」


「あぁ、俺から闇の剣精を取り戻そうってんだろ?」


 そう、各聖剣には剣の精霊が宿っている。

 しかし、ユーリから渡された闇の聖剣、これにはなぜか剣の精霊がいなかった。

 正確に言えば、いるのだが剣の中にいない。


 どう考えてもユーリが精霊を匿っている。それに、これほどまでに精神を汚染された第二王女を治癒するには、光の剣精による治癒と、闇の剣精による“復元”が必要になる。

 だからこそ、神崎はユーリに刃を向ける。


 かつて届かなかったその刃を今度こそ届けるために。


「ぶちゃけ言うとね、かなりワクワクしているのも事実なんだ。今の君に僕がどれだけ通用するのか、あれから僕がどれだけ強くなれたのか、そして、君の背中を追いかける資格があるのか、今日ここで測らせてもらうっ!」


 内乱でたった一人も殺すこと無く戦い抜いた勇者。今回の本質的な問題であったウェルシュの暗殺と、ウェルシュ同様すでに壊れていた第一王女の暗殺を見事やってのけた神崎。

 誰に知られることもなく事を成し遂げ、最後は自身のワガママのために、本当に救いたいたった一人の女のために戦う姿は、まるで英雄譚に記されるどこかの誰かにそっくりだった。




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