第368話

「それであの女―――ヘネシーは………“個性”に対して絶対的優位になれる“個性”を持ってたの。その個性があんたと同じ個性……【過付加】なのよ」


 ヘネシー。その名前にはカリラは聞き覚えがあった。

 あのバカ主人から直接聞いたこともあるのだが、それより、あの日……カリラが自分を失ってしまったあの事件、その後にバカ主人がうわ言のように寝言で言っていたのだ。


「ぶっちゃけマッカランとかキルキスが秘密兵器って言われてたのに嫉妬してたわ。だけど、ヘネシーが武器じゃなく“パートナー”って言われてるの見て私達全員納得しちゃってたの。あの二人が組むと誰も、何もさせて貰えないし。だけど私達が納得したのはただ強いからじゃない。あの子はユーリ並みに無能のくせにいつも先頭で、誰よりも速くユーリを信じて行動を起こすのよ。正直妬むこともできないくらいあの二人はお似合いだったわ。本人同士も愛し合ってたわけだし、私やマッカラン、キルキスでさえもヘネシーにユーリのパートナーとして勝てる未来が見えなかったのよ」


 悲しそうに、しかしどこか誇らしげにヘネシーの話をするキャロンを見てカリラはキャロンもヘネシーのことを本当に好きだったのだろうことが想像できた。


「だからって愛人……」


「ヘネシーは王女よ。第一王女。だからヘネシーとくっつくと側室を囲えるじゃない? そうなればシェアユリしてシェアハピじゃない」


 真面目な話をしたかと思えば、もはや安定と言っても過言ではないキチ発言を受けてカリラは眉間を抑えることしかできなかった。


「カリラ、あなたはまだまだ過付加を使いこなせてないの。ヘネシーはね、周囲に広げた自分の加護に触れた瞬間ボンってしてきたわよ」


 天才の説明はアバウト、そんな言葉を思い出しながらカリラは今の説明された状況を想像してみた。


(広げた加護を使って個性を使ってた感じみてぇですね。でもそんな事しちまったら自分の加護も過付加でぶっ飛んじまうんじゃねえですか? あんまイメージができねえですね)


「そうね、加護から個性を使うって少しイメージがしにくいわよね。だけどそもそも加護と個性には密接なつながりがあるから、やりゃできるわよきっと」


 論理的なようでそうではない励ましの言葉を受けたカリラは余計に頭を捻るはめになる。

 

「さて、ついたわよー! これからじゃんじゃん修行するわよー!」


「やっぱ修行になりやがるんですか」


「そうよ! ユーリ曰く、修行パートは適当に飛ばして、修行が終わった状態でざっくりした回想するくらいが丁度いいって言ってたわね」


「はぁ、やっぱあのバカ主人の言ってる意味はよくわからねえですね」


「まあそこも良いところなんだけど、それより、これから先の修行は特別コースよ。なんと言ってもこの部屋は修行の修行による修行のためのストレス発散部屋なんだから! さぁ構えなさい! どんどん行くわよ!」


「―――は!?」


 意味がわかりたくない言葉の羅列を脳みそが咀嚼しようとした瞬間、カリラの上半身が吹き飛び、血を間欠泉のように吹き出す下半身がゆっくりと地面に倒れていく。


「ちょっと何してるのよ……油断しすぎじゃないからしら。あんたが“完成”しない限りは今回の作戦の成功率がクソほど下がっちゃうのよ。そう言う所もっと自覚持ってやってくれないと困っちゃうわね」


 そう言っているキャロンの表情は今しがた一人の人間を殺したものとは思えないものであった。例えるならその顔は、まるで“瓶詰めの蓋が思ったよりも簡単に開いてびっくりしてる”くらいのものだった。






 

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