第367話

「ブリッジ様!」


「おかえりなさいませ!」


「隣の女は誰なんだ……」


 なそなそ様々な視線と小さな声がカリラの耳に届く。

 先程の殺伐とした雰囲気はどこかに消えさり、今ではまるで英雄の凱旋のような雰囲気を感じる。


「あんたら顔怖いのよ。それより地下の方はどうなってるのかしら?」


「はい。いつでもご利用頂ける状態です! 管理のドライアドたちもかなり頑張っておりまして」


 キャメロン・ブリッジとおそらく獣人種の男性が話しているのが聞こえてくる。

 しかし、その獣人種は外ではあまり見かけない種であり、カリラは外で聞いた迫害されたりしている種が集まっているという噂が本当だったことを知った。


 獣人の男性の話を聞いたキャメロン・ブリッジは満足気にうなずくとそのまま廃墟の中に足を進める。 

 カリラもキャメロン・ブリッジの後を追うように移動を開始した。


「そう言えばあなた、カリラっていうんだっけ? 私のことはキャロンでいいわ。さっきから心のなかで何度もフルネームで呼んでたでしょ? 私こう見えて仲いいやつにはキャロンって呼ばせることにしてるのよ」


 あっけらかんと言ってのけたキャメロン・ブリッジにカリラは驚きの表情を浮かべる。

 何かをやったわけでもないのにカリラの思考を読み、それをさも当たり前のことのように言ったことにも驚いてしまった。


「勝手に心読むんじゃねえですよ」


「仕方ないじゃない。“ここ”にいるとちょっと力の制御が難しいんだから」


 キャロンはそう言いながら今いる場所から見える唯一の高台を指さした。

 カリラはそこに目を向けると、陽の光を反射した紫色が視界に入る。

 

「ここは超巨大な紫結晶に囲まれてるの」


「前から気になってらがったんですが、あの紫結晶て何なんでやがるんですか」


 事あるごとにユーリが取り出し使っているあの結晶。

 もはやあの結晶がユーリの象徴と言っても過言ではない程に、カリラの中では紫結晶とユーリが結びついていた。


「アレの効果はなんとなくわかる?」


「えぇ、たしかバカ主人の個性を強化するもんじゃなかったですかね」


「正確にはユーリだけじゃなく、全ての個性が強化されるの。ユーリの場合効率よく“強化値”を操作して使うから他の連中よりも遥かに強くなっている“ように見える”のよ」


「そんなもんがありやがるんですね」


「あの結晶の正式名称は“神の欠片”と呼ばれていてね、強大な力を持ってる魔物や古代種なんかから産出されるの」


 なかなか物騒な名前だなぁなんて思いながらも、カリラはもう一つ気になっていたことを聞いてみた。


「バカ主人のパートナーってどんなやつでやがるんですか」


「そうね……どう表現したら良いのか難しいんだけど、唯一言えるのは私やマッカラン、それにあのキルキスも勝てなかった女よ」


 史上最強の存在が勝てなかった、その言葉にカリラは意味がわからなくなった。

 過去の話を聞くに、マッカランもキルキスもあのバカ主人にしか負けたことが残されていない。

 であれば、その最強を倒した女とは何者なんだ。


「あぁ、一つ言えば、戦闘能力はゴミ以下のうんこよあいつ。例えるなら劣化版ユーリ2Pカラーって感じかしら」


「あんなのが二人もいやがったんですか」


「性格は全く違うし、そもそもの土俵も違うんだけどね。知ってるかわからないけど、ユーリは魔法に対して絶対的優位になる“武器”をもってるの。強敵相手の接近戦と魔法系に対して圧倒的に有利って感じかしら。まあ有利と言ってもうんこが鼻くそになるくらいの違いしかないんだけど」

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