第365話
「何でやがりますかその脳みそにウジが湧いちまってるようなクソきめえ名前は……」
不機嫌そうな表情のカリラは突如現れた来訪者に怪訝な視線を向けながら、頭の中で“あのバカならやりかねない”とどこか納得してしまいそうになった自分を諌めていた。
「もう一度言うわ。私とドキドキ☆ハーレムランドに来てちょうだい」
乗数的に加速する頭痛と、ストレスによって震えだした瞼を抑え、カリラは今一度大きなため息を吐き出した。
「どうして私がそんなゴミみてえなところに行かなきゃならねえんですか」
「理由は簡単よ。あいつにはあんたが絶対に必要なの。でもそれは今のあんたじゃ無理。なら鍛えるしかないじゃない? こう見えて私師匠とか憧れてたのよね」
「はぁ……」
どう見てだよ、とかまるっきり話が通じねえじゃねえですか、などなどカリラは頭の中で様々な思考を巡らせる。
しかし、どうにもわからないのが目の前の化け物とあの男の関係性だ。
「話を戻しちまって申し訳ねえですが、あんたとあのバカ主人は一体どんな関係でやがるんですか」
「将来を誓いあった愛人よ。悔しいけど正妻になることは諦めたわ」
ギリッとカリラの奥歯が軋む音を上げる。
目の前の頭のいかれた女から感じる加護は今まで見た中で“2番目”であり、魔力だけであれば“あのマッカラン以上”の超弩級の怪物。
しかし、どうしてあのバカ主人の友人はこうも頭のネジがダース単位でぶっ飛んでるやつばかりなのか。今更考えてもすでに手遅れなことはわかっているのだが、どうしてもそのことを考えてしまうカリラ。り
(こっちの意見は完全無視、言いたいことを言い続ける、無碍にできねえくらいの力を持ってやがるってのが余計にタチわりいですね)
見た目完全に不審者。フードを目深にかぶり、顔も体型さえよくわからないという徹底ぶり。
カリラは今日何度目かになる深い深い溜め息を吐き出しながら目の前の気狂い女との邂逅を思い出した。
バカ主人ことユーリが失踪し、カリラは今までに無いほどのブチギレていた。
それもそのはず、かつて何度も勝手にいなくなり、そのたびに問題ごとに巻き込まれ、ただ事ではない怪我や危機に巻き込まれてきたのだ。
今回も確実にそうなることなど容易に予想できた。
「まだ、足手まといだってんですか」
小さくつぶやかれたその一言。ユーリの真意はわからないが、置いていかれる側というのはどうしてもそう考えてしまうものだ。
ギルドの依頼でサイクロプスをミンチにしてストレスを発散し、いつもの宿に帰れば、早々にやつが現れた。
「あんたにはまだ自分でも把握できていない凄い可能性があるわ! さあ私を信じてついてきなさい!」
「何頭湧いたこと言ってやがんですか死ね」
完全に悪質な宗教勧誘にしか見えなかった。
かつてカリラはバカ主人が立ち上げたアホ宗教“幼女ペロペロ教”についてあの魔王に話を聞かされたことがある。
それはもう可哀想だった。
幼女orDie。信仰ではなく純然たる暴力で支配された悪質な宗教だった。
目の前の頭が湧いているフードもその手のたぐいだろうと勝手に決めつけ、まともに会話することを早々にやめようとした時、目の前のフードから加護と魔力が開放された。
正確に言えば、カリラにのみ伝わる形で開放された。
故に周囲の客はそのことに気がついていない。しかし、当のカリラは全身から吹き出す冷や汗が止まらなかった。
本能が逆らうことを拒絶するほどの圧倒的な力の差を目の当たりにするも、これも場数の為せる技なのか、カリラは態度を変えなかった。
こういう実力差はすでに魔王で経験済みだったのだ。
「つまり、何が言いたいかって言うと、私と一緒にドキドキ☆ハーレムランドに来てほしいのよ」
どうやらまともな会話はそもそも成り立たなかったようだとカリラはこの時に悟った。
そして冒頭に戻るというわけだ。
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