第364話

 つい笑みを浮かべてしまった二人の姿を見たシーバスは顔を赤くしながら彼らに食って掛かった。


「な、何がおかしいんだよ!」


「いや、まあなんだ……千器になりてえのは否定しねえがな……」


「注意、おすすめもできません」


 そう言うとブレアとスペイサイドは再び目を合わせてやらかい笑みを浮かべていた。

 その姿はどうも言葉以外の何かを含んでいる様に見えてシーバスは更に顔を赤くしながら騒ぎ出さす。


「千器の何が悪いんだよ! 別に憧れちゃいけねえわけじゃねえだろうが!」


「馬鹿にしてるわけじゃないんだよ。ただの思い出し笑いだから気にしないでくれ」


 思い出し笑いという言葉の意味が理解できず首をかしげるシーバスとティーニの二人が今度は視線を合わせた。


 500年前の人間のことを思い出すということは姿は人間一回ものだが、長命種なのかもしれないという思考を巡らせていた。


「あんたら千器を知ってるのか?」


「知ってる……と言って良いのかわからんが、前に世話になってな」


「ほっ本当か!? その話聞かせてくれ!」


「あぁ、良いけど、話しながらでも良いからとりあえず移動するぞ」


「推奨、本機もその方が良いと考えます」


 ブレアはスペイサイドの意見に参加しながら、スペイサイドのみにわかるように懐にしまわれた手紙の内容について耳打ちを行った。


「意見、あの手紙が本当であればこの二人がおそらく……」


「あぁ、そう見て間違いねえだろうな」


 二人はすでに準備を終えていたが、シーバスの消耗が想像以上にひどく、彼の回復を今まで待っていたわけだが、今の様子からしてもう移動くらいは可能だろうと判断したのだった。


 多少大げさにしているシーバスにティーニが肩を貸すようにして洞窟を抜け出したブレアたちはそのまま王都に向かうということはなく、現在地からすれば王都と反対側に移動を開始した。


 シーバスとティーニは自分たちが追われているという自覚があるのでその方向に逃げることが最善であると言うことは理解していたが、二人の移動先がどうにも気になってしまった。


 その方向というのが、悪魔の地と呼ばれる、かつて悪逆非道の領主が収めた地に向かっているとわかったからだ。


 今でもあの領地に近づくものなどほとんどいないどころか、没落し廃墟となった領地に様々な種族が住み着いており、その治安は王都近郊の中では最悪な場所となっていたのだ。


「この方角ってことは、悪魔の地に隠れるということですか?」


「あの治安だ、俺達みたいな厄介者を隠すにはお誂え向きなんだろうよ」


 シーバスとティーニは予想を話し合っていたが、その予想がブレアとスペイサイドにとっては予想外だったらしく、ちょっと驚いた表情を浮かべながら二人に視線を向けた。


「お前ら、もしかしてあの領地のこと知らないのか?」


 振り返り声をかけるスペイサイド。その隣りにいたブレアはいつの間にかいなくなっており、スペイサイドもその場で足を止めた。


「どういうことだ……?」


「あの領地ってのはそもそもお前の憧れの“千器が治めた領地”なんだぞ」


「―――なッ!? じゃあなんで悪魔の地なんて呼ばれてんだよ」


「それは俺も知らん。ただ、あの地では今でも千器の帰りを待つ多種多様な種族の末裔が領地を守ってるはずだ」


「様々な書物を読みましたが、あの場所は“かの領地”や“悪魔の地”など、正式な名前が確かにありませんでした。それとも何か関係があるのでしょうか」


「あぁ〜、いや、俺も統制協会のストラス・アイラに聞いた話なんだが、領地を下賜された時にその命名でめちゃくちゃ揉めたらしくてな……一応領地の名前は聞いてきたんだが……聞かないことをおすすめするぞ?」


「いや! 俺は次期千器になると決めてるんでな! 千器のことであればどんなことでも知っておきたい! ぜひ聞かせてくれ!」


 シーバスが目を輝かしながらそう言うと同時に、ブレアがいつかのまめバスを持ってきて、スペイサイドの前でドアを開けた。


 スペイサイドは少しいたたまれなくなりながら、開いた入り口のステップに足をかけながらシーバスに視線を合わせ、その歴史上から消し去られた領地の名を告げた。










「―――ドキドキ☆ハーレムランド……だそうだ……」

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