第360話
龍脈の中から脱出し、服の裾を何度か払う。
別に汚れているわけではないが、気分的にあそこはいい場所ではない。
なにせ“この世界で死んだ連中の魂の循環装置”なわけだしな。
その循環する際に発生するエネルギーが“魔力”ってわけだ。
あんな辛気臭いところ二度と行きたくはなかったが、これも生き残るためなら仕方がない。
「―――っと、そろそろ戻らないとハーシュに殺されるな」
ハーシュのライブ時間が迫っていることを感じ、そそくさと帰路についた。
ランバージャックに戻ってくれば、すぐにローズが俺のもとに駆け寄ってきた。
本当に匂いを隠さないと速攻で見つかるな。
「ハーシュさんがお怒りですのでさっさと帰りますわよ」
「あいつほんとすぐ怒るよな。カルシウム足りてないんじゃねえか?」
そんな事を言ってみればローズにつま先でスネを蹴られた。
「さっさと行きますわよ」
ローズに手を引かれ、俺達の宿泊している宿に強制連行されてしまった。
というかこいつ街の外壁門で待ってたのかよ意外と律儀だな。
「おっ帰ってきた! ねぇねぇ今日の衣装どれが良いと思う?」
そう言って俺にいくつかのドレスを見せてくる。
「どれも良いドレスだぞ。お前にも十分似合う」
「はぁ、うんこだわこいつ」
ガックリと肩を落とし、そういったハーシュ。
いや、そもそもそのドレス俺がお前に貸してやってるものだからな。
「綺麗だな。よく似合ってる」
そのドレスの本来の持ち主がそれを着て俺に見せてくれた光景が網膜に浮かび上がる。
それと少しだけハーシュの今の姿が被って見えた。
小さく呟くように俺が言った言葉は聞こえていなかったようで、怒ってしまったハーシュがこちらに背中を向けてせかせかとドレスをあさり始めてた。
こりゃ俺はいないほうが良いな。そう思って先に宿の一回に併設される酒場に移動して軽食を人数分注文しておいた。
そこからしばらくして二人が降りてきた。
ハーシュは未だに怒っているのかこちらを見ようともしないで俺の斜め前の席にどかっと腰掛けた。
「ちょっとあなた何したんですの?」
ローズが小声でそんなことを言ってくる。
「あーえっと、似合うか聞かれたからドレスは良いものだし何でも似合うだろっていった、かな」
「……それだけですの?」
ジトーっとした視線でこちらを見てくるローズだが、本当に俺はそれしか言ってないんだという意味を込めて肩をすくめてみたが、ローズは大きなため息を吐き出しながら頭を抱え始めた。
「飯が来たな! 今日は前線に出るんだからしっかり食っとけよ?」
そう言うとドレス姿のハーシュは俺のパンまで奪い取ってガツガツと飯を食い始めた。
まあそこまで多くはないから大丈夫だと思うけど、コルセットぶっ壊れたら買い直しさせよう。
ローズはこういうところでは育ちの良さを誇示するようにお上品に飯を食ってる。
俺と戦った時ゲロ撒き散らしてた女とは思えねえぜ。
「メインの警備は引き続き俺がやるけど、ローズ、今朝のうちに準備はできてるんだろうな?」
「抜かりありませんわ」
「お前んちの牢屋でジャーキーかじってた女とは思えねえ上品さだな」
「てめえの血は何色だですの」
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