第358話

 もしものときの保険も兼ねてローズにブックマークを施し、そこから俺が星の記憶で掴んだ情報の一部とロリババアに調べさせた内容の一部、これを彼女に伝えた。

 すべてを伝えないことにはわけが当然ある。いや、正確に言えば伝えることができないというのが正しいだろう。


「大体のことは把握できましたわ。でしたらわたくしはどのように今後動けばよろしいんですの?」

 

 この質問の本質は“知ってる”事がバレないようにしたほうが良いのかというものだろう。

 真剣な瞳をこちらに向けてくるローズに視線を合わせながらゆっくりと答える。


「思うように動いて問題ない。ただ、迷うようなことがあればすぐに俺に判断を仰いでくれ。そのためのブックマークでもある」


「まあそう言うと思ってましたわ」


 そんな話をしていれば、先程から蚊帳の外になっていたハーシュが不機嫌な顔で俺の脇腹をつねりあげてくる。


「ちょっと、ちゃんと説明してよ」


 頬を膨らませ可愛らしくそう言ってくるハーシュに、ここぞとばかりにイケメンな微笑みを浮かべながらサムズ・アップした。


「ハーシュたん、本物の歌姫になってみない?」


「顔こわっ! なにその黒い顔……すごい不安なんですけど……」


 おい待て爽やかスマイルのはずじゃなかったのかこれ。

 鏡の前で練習したんだぞ!?


「これがお母様の言っていた……なるほど、たしかに納得の邪悪さですわね……」


 ローズてめえもか!!!

 というかチョコチ何教えてやがるんだよそんなに俺の笑顔ってダメなのか!?

 あぁっ!? スマイルはイケメンに限るってことですかこの野郎!!!!


「ま、まあそんなことはどうでも良いのですよ」


「どうでも良くないわよ説明しなさいよ」


「あ、はい……」


 ゴホンと、一つ咳払いをして少しだけ先程の弛緩した空気感が再び緊張する。


「このくだらない内戦をぶっ壊して皆幸せ大団円ってなったらどう思う?」


「そんなことできんの……?」


 猜疑心を多分にはらんだ視線を俺に向けてくるハーシュに対し、自信満々に答えてやった。


「「できる」」


 少しだけ予想外だったのは俺よりも自信満々にローズが言い放ったことだ。


「でも、どう見てもこいつって大したことないわよね? えっと、ローズさん? のほうが遥かにすごい人に見えるんだけど」


「強いか強くないかで言えば、確実にわたくしの方が強いですわね。力も速さも魔力も個性も異能も確実にこの人よりわたくしのほうが強いですわ」


 その言葉に激しく不安そうな表情になるハーシュ。

 

「ですが、“勝ち負け”だけを強さの指標とするなら、わたくしはこの人よりも“強い”生物を知りませんわ」


 真っ直ぐな瞳でハーシュを見つめるローズ。 

 その姿に少しだけ子供の成長を感じつつも、なんだかやたらと信頼されちまったみたいだなぁなんて思いながらどこか照れくささのような物を感じた。


「なんかよくわかんないんだけど、とりあえず戦争を止めるのは賛成。そもそも私はできなくてもやるつもりで来てるんだし」


 ハーシュが少し恥ずかしそうに言った言葉を聞いて、俺とローズが同時に笑ったのがわかった。

 

「いいねいいね、じゃあ今回のMVPはハーシュか“あいつ”のどっちかになるわけだな!」


 そこから話は盛り上がり、小馬鹿にされたと勘違いしたハーシュが俺に掴みかかってきたり、ローズにセクハラしてぶん殴られたりしながら話が進んでいった。


 そして翌日。


「ほ、本当にやりますの?」


「善悪は度外視して、必要か不必要で言ったら?」


「ひ、必要ですが……」


「お前一人でキルキスとマッカラン五セット分の働きができるならやらなくても良いんだが」


「無理ですわ! あんなおとぎ話の怪物と一緒にしないでくださいまし! 如何に最高位の英雄でも山を投げたり、渓谷を腕力で閉じたりなどできませんわ!」


「うんじゃあ行ってらっしゃい」


「うぐっ……わ、わかりましたわよ……」


 昨日話した作戦がどうにも気に食わないらしく、ローズが粘ってくるが、無理難題をふっかけなんとか撃破。

 不貞腐れた子供のようにこちらを一度睨み、不承不承と出ていった。



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