第357話
王都でそれなりに有名な店に入り、そこでカウンターでグラスを磨いている男に声をかける。
「古くて匂いがきつい酒」
「飲み方はどうされますか?」
「お茶割りで」
「少々待ちください」
この俺がせっかくの酒をお茶割りにするはずがなかろう。
まあお茶割りが合う酒なら問題ないが、初めて飲む酒はストレートか常温のトゥワイスアップこれです。
「こちらへどうぞ」
いわゆる“奥の部屋”に通された俺達はそこで改めていくつかの飲み物を頼んだ。
「ちょっ! お酒は辞めるんですの! これから大事な話をするんですの!」
「うるせぇ! 俺は酒を飲まねぇとやる気が出ねえんだよ!」
メニュー表をローズと取り合っていると背後からハーシュに頭をひっぱたかれた。
「す わ れ」
「……あい……」
ハーシュさんが最近怖い件について。
「まぁ簡単に紹介すると、こっちはローズ。俺の下僕。んでこっちはハーシュ。俺の性奴隷だ」
3分ほど二人にサンドバッグにされたのはもはや言うまでもないだろう。
「ローズさんは冒険者なんですね」
「そうですわね。もし間違っていたら申し訳ないのですが、ハーシュさんはひょっとしてあの“歌姫”のハーシュ様……?」
「あ、一応それ……です」
歌姫なんて自称する物でもないので少し恥ずかしげに答えたハーシュに、ローズが目をキラキラさせて怒涛の勢いで質問攻めにし始めたのでそれをなんとか宥めた。
「まあ色々あって一緒にいるんだよ。んでお前の方の話ってなんだ?」
話を振ってみれば、グラスを両手で握るローズの手に少し力がこもるのがわかった。
「今回の反乱に関してお母様から連絡が来ましたの。どうにもおかしいと。可能なら今すぐにあなたと合流するように言われておりましたわ」
「チョコチか、まあそうだろな。あいつはボッチを極めた結果無機物と仲良くなる能力を身に着けたほどだしな」
「普通に個性ですわ」
「まあそれは良いんだけど、爺さんたちはどうしたんだ?」
「今は拠点で休んでもらっておりますわ。最近周りの懇意にしている冒険者に色々と根回しをしているんですの」
こいつもこいつで 色々動き回ってるんだな。
何が起こっていうのかを理解しているわけではなさそうだが、それでも冒険者としての“本能”のようなものが働いてるのかもしれない。
少しだけローズの成長を感じることができて嬉しくなった。
「具体的にはどういう事が起こっているのかわからないのですが、それでもお母様の様子から見てかなり確度の高い予想らしいですわ」
「いや、そこを疑ってはいないし、あいつの予想はまぁまぁ当たるしその判断も俺の予想だと間違ってない」
「やはり何かが起こっているんですわね」
「そういうことだ。ちなみに俺の用ってのは、お前にこいつの護衛に参加してほしいわけ。俺は今回の内乱の件で色々動かないといけないんでね」
「え、いいんですの? ハーシュ様ですわよ? あの歌姫ハーシュ・リザーブ様ですのよ??? わたくしランキングで稲辺神様の次にランクインしているあのハーシュ様ですわよ? というかそもそもどうしてあなたがハーシュ様とそんなに仲良さそうにしてるんですの? は? ぶっ殺しますわよ」
「おい最後だけ疑問形じゃねえじゃねえか。ただの殺す宣言じゃねえかおかしいだろ!」
「ハイクを詠め」
そう言って拳を握りしめながら狂気に満ち溢れたローズを落ち着かせるのに20分はかかった。
「なぁ、ローズ、一時的にお前にブックマークつけていいか?」
ブックマークとは俺の個性の応用であり、特定の対象にマークを刻むことで俺が紫結晶でいつでも呼び出せるし、ボイスチャットやテキストチャットを送り合えるようになる。
「それってあれですわよね? クランの証……」
「ん? 別にそんなことねえぞ? それに依頼関係で個別に依頼出すのが面倒だったミハイルが勝手にクラン認定してそこからなし崩し的にクランでいたってのが現実だしな」
「そ、そうだったんですのね……まあわたくしとしても特に問題ありませんわ」
その“了承”と同時に彼女の左鎖骨の少ししたあたりにバーコードが刻まれ、俺の首にあるバーコードが光を放った。
俺の干渉力は結構弱い。だからこそ基本的に相手の“了承”か“権利の譲渡”がない限り思うように使えない。
戦闘で活躍できねえわけだわ。
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