第356話
「おえぇぇぇえっ、きもぢわるい……あだまいだい……」
案の定ハーシュは二日酔いになりましたとさ。めでたしめでたし。
なんてこともなく、真っ青な顔で部屋から出てきたハーシュが俺の服にゲロをぶちまけ、洗濯と乾燥をしなくてはならなくなったので現在時刻は昼をちょっと過ぎた頃。
未だに体調が優れないハーシュは酒場の机に突っ伏して死にかけのセミみたいになってる。
「ハーシュ」
「ちょっとまって今ほんとにやばい」
「あ、はい」
その後2回のゲロとクソ長え時間トイレに引きこもりを経て、ようやく回復したハーシュと対面することができた。
「大変な難産だったみたいですね」
「違うのよ、水っぽいんだけど出し切ってもおなかが痛いの、わかる?」
「とりあえずくっそマニアックな趣味をお持ちの方以外に需要がない話はやめてくれませんか」
「あんたが振ったんじゃない……」
「そんなことよりだ、お前昨日言ってたのは本気か?」
「―――本気よ」
最後の確認がてら話をふってみたが、どうやら酒の席での戯言ではなかったらしい。
前に見せたあの鋭い視線を再び俺にも見せてきた。
「死ぬかもしれないんだぞ」
「なんのためのボディーガードよ」
「いやすまん、俺もこれから忙しくなりそうなんでな、今までみたいに四六時中一緒ってわけにも行かないんだ。だから代わりのやつに頼もうと思う。できるなら安全なところで活動してほしいってのが本音だな」
流石にこのままこの活動に協力し続けるのは現実的ではない。それに俺にも俺の目的があり、それがぶっちゃけ結構やばいレベルまで進んでいるもんだから余計にハーシュに協力するのが難しくなる。
「嫌。そこから逃げて生き延びてもきっと私にはもう何もなくなっちゃうし、逃げたくない」
こいつにはこいつの戦いがある。それはわかってたことだ。
「俺も可能な限り協力はする。だけどこの前みたいなこともある。だから人を増やそう」
「それは賛成できれば女子希望」
それを聞いたので本当に不本意ながら俺は生体魔具で一つのアイテム……アイテムと呼んで良いのかわからない物を取り出した。
「なんで靴下……」
「少し前俺が5日野宿した時に履いてた靴下だ」
「いや、だからなん―――」
ハーシュがそこまで言いかけた時に、こちらにとんでもない加護を撒き散らしながら接近する一つの気配を感じ、黙ってしまった。
ここ最近俺のことを文字通り嗅ぎ回ってるやつがいたわけだ。
本当に面倒だと思いながらもここで俺が一人で何もかも背負い込めるくらい強くてメンタルイケメンの後先考えない無鉄砲さんだったら良かったんだけど、流石にこれを一人でどうにかできると思えるほど俺は自分を信じていない。
「ようやく見つけましたわッ!!!」
宿屋のドアをぶち破って登場したのは最近ネタ要員としてしか登場がなかったローズ。
ウルトラソゥは彼女を狂わせてしまったのだ。
「久しぶりだな」
「あぁー……そういう感じですの……漸く隙を見せたのかと思っておりましたが完全に誘い込まれたわけですのね」
意気揚々と乗り込んできたくせに、俺が割り箸でつまんでる靴下を見て肩をガックリと落としていた。
「悪い、少し用事があってな」
「はぁ、こっちも重要な話があって探し回っていたので丁度いいですの」
「しかしまぁ」
「そうですわね」
いささか風通しが良くなりすぎてしまっている宿の酒場部分で、ローズがウエイターに修理費用を渡してくるのを横目で見ながら外に出た。
「大丈夫なところに移動するか」
「そうですわね」
「ちょっとどういうことなのよ……」
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