第355話
せっかくカッコよかったのに最後の一言ですべてが台無しになってしまったハーシュを抱え、そのまま壇上を後にする。
人目がなくなったことと、緊張が途切れたのか、先程までは毅然とした態度を保っていたはずのハーシュがポロポロと涙を流し始めた。
今は一人の時間が大事だろうと言うこともあり、彼女を宿に送り届けてから野暮用を片付けるためにギルドに向かった。
「すみませーん」
「はいはい」
カウンターで声を上げれば、奥から女性がそそくさと出てきた。
作業用の手袋を外しながらなのでおそらく検品中だったのかもしれない。
「ここに、こんな感じの受付の人っていましたよね?」
「あぁ、そうですね。でも今日お休みなんですよ」
この前カラーボールをぶつけられてギルドに文句を言いに来てから毎日休んでやがるな。
これはもうすでになにか起こった後なのかもしれないとおもい、非常に選択したくない選択肢を視野に入れながらギルドを後にする。
俺が想像していたよりも他の連中も情報を持ってたってことか、それとも黒幕の野郎が可能性を潰すために先に動いたのかわからねえが、流石にこれほどまで相手の動きが早いと俺一人の手に余る。
宿にとんぼ返りを決めた俺はそのままハーシュの部屋の扉を数回ノックした。
すると少しだけ目元が腫れたハーシュが出てきて少しだけ恥ずかしそうにこちらを見てきた。
「どうしたの」
「いや、飯でも食いに行くか?」
「……行く」
こんな会話をしてはおりますが、ハーシュは現在無一文であるため、基本食事代は俺もちになっている。
そのためこうして一緒に飯を食うほうが効率的なのだ。
なんて誰に言っているのかもわからない言い訳を頭の中で巡らせながら、いつもより静かに俺の後ろを歩くハーシュに声をかける。
「なにか食いたいもんはあるか」
「焼き鳥」
短い会話だけど、これで十分だ。
俺なんかが無駄に心配する必要ないくらいこいつは強いやつだ。
それに覚悟もある。しばらく今の苦しみに耐えることになると思うが、それでもこいつならそれをバネに成長するだろう。
ハーシュの要望通り焼き鳥屋で一通り飯を食い、酒を煽っていれば、少しずつハーシュの口数も増え、飲み始めて1時間も経てば先程のしおらしい姿など跡形もなく消え去っていた。
「普通石投げる? 馬鹿じゃないのほんと。手出すなって言ったけどさぁ! でも石は無いじゃん普通に考えて! 大見えきっちゃった手前避けられないしめちゃくちゃ怖かったし死ぬほど痛かったんだからね!?」
もうこうなったら完全に手がつけられない。暴走モードと言っても言い。
若干こいつは酒乱の気があるんだよなぁ。
「正々堂々拳で来いってのよ! なによ石って! 原始人もびっくりだわ!」
「それにあんたもあんたよ! 泣いてる女がめの前にいて慰めもしないわけ? 男ならそこは少しでもカッコつけようとするもんでしょ!? しかもこぉんな美少女が弱ってるんだから少しくらいつけ込んでみようとか思わないわけ? あんたそれでもちんこついてんのかよ!」
「そろそろやべえなこいつまじで……おいばか! もう飲もうとするんじゃねえ! なっ力強っ!?」
「ちょっとあんたちんこ見せなさいよ! 本当についてるか私が確かめてやるんだから! ほら脱げ! 今脱げ! なんで逃げんのよ! 待ちなさい!」
結局お釣りをもらうこともできず無駄な出費がかさんでしまった。
仕方ない。こんな場所でズボンをむしり取ろうとしてくるような危険なやつとおなじ部屋にいられるか! 俺は自分の部屋で寝る! ってやつだ。
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