第352話

 俺の静止も待たず、大塚はどうやったのかわからないけど空中を高速で滑るようにしていなくなってしまった。

 当然あのヘルメットの子も一緒に。


「ゆーりんなんだって?」


「あ、あぁ、お前にこれを渡してくれって、後巣鴨さんにはこっち……」


 先に手渡された物を彼女たちに渡してみれば、二人の手にアイテムが渡った瞬間にアイテムからまばゆい光がほとばしった。


 そのあまりの光量に戦闘中だった二人も剣を止め、こちらに声を掛けてくる。


「なんだ! 何があった!」


 急いでこちらにきたスコシアさんを刀矢は追撃しなかった。

 背後から襲うような真似をするはずないと思っていたけど若干ヒヤヒヤしたのは内緒だ。


「なにこれっ! やば……」


「ふぁぁぁぁっ!」


 ストールとネックレスに宿っていた力が坂下に流れ込んでいくのがわかる。

 その力だけでも頭が痛くなりそうな力の濁流だったが、巣鴨さんの方もかなりやばいもののようで、周囲に溢れている魔力が巣鴨さんに集まっていくのがわかる。

 

「どういうことだこれ……おい馬鹿弟子! 説明しやがれ!」


「おそらくだけど、大塚になにか言われたんだろうね。そしてアイテムを託された」


 剣を収めながらこちらにゆっくりと歩いてきた刀矢にスコシアさんが剣を向けるも、当の本人はすでに戦闘の意思が無いようで、両手を上げたまま近寄ってくる。


「あぁ、だいたい正解だ。それと刀矢、これはお前にだとさ」


「これは……闇の聖剣じゃないか。数百年前に破壊されたって聞いたけど大塚が持ってたのか」


「あとスコシアさん、大塚……あの黒尽くめからこれ……」


 スコシアさんに大太刀を手渡すと、その顔は今までに見たことがないほどの怒りに満ちた表情に変わったのがわかる。


「これを渡してきたやつ、なにもんだ」


「さっきも言いましたけど、俺達と一緒に―――」


「千器……昔はそう呼ばれていた勇者です。この世界に再度召喚されたみたいですね」


 俺の声を遮って答えたのは刀矢だった。

 その答えを聞いた瞬間、怒りが煮えたぎっていた表情をしていたスコシアさんに表情が今度は凶悪な笑みに姿を変えた。


「―――知ってか知らずか……いや、本当に千器なんだとすりゃ知っててこいつをアタシに渡しやがったんだな。いい度胸じゃねえか」


「それ、何なんですか?」


「ラングスの歴史上最も強いと言われてたやつが使ってた大太刀だ。間違いねえ」


 スコシアさんは鞘から抜き放った刀身を舐めるように見つめた後、再び笑みを浮かべた。


「あいつはアタシが殺す。いいな」


 手に持った大太刀と同等の鋭い覇気を撒き散らしながらこちらに視線を向けるスコシアさん。

 俺はその言葉にうなずくこともできず、ただ目を合わせ続けることしかできなかった。


「あ、あと、今はとにかく戦力温存しろって……」


「なるほど、じゃあ僕は引き上げるとするよ」


 妙に聞き分けの良い刀矢が踵を返してこの場をさろうとしたが、スコシアさんに肩を捕まれ、止められてしまう。


「お前もアタシの獲物だ。それまでどこの誰とも知らねえやつにやられるんじゃねえぞ」


「そう言ってもらえるのは光栄なんだけど、元よりもう誰にも負ける気はないよ」


 それだけ言うと、今度こそ刀矢はこの場から去ってしまった。


 結局スコシアさんと刀矢の戦いは有耶無耶のまま終わってしまったようだ。

 それにあいつの言ったことが気になるのは俺だけじゃないようで、スコシアさんもどこか考え事をしているみたいだった。


「とりあえず戻りますか」


「そうだな」


 どこか釈然としない空気のまま結局その日はそれ以上の戦いは発生しなかった。

 それどころか、各地で様々な自然災害が起きて戦争どころではない状態らしい。

 



 俺はそれを引き起こしたであろうやつに確実な心当たりがある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る