第351話
「あれ、勇者じゃん」
翌日、スコシアさんを伴って再び刀矢と戦闘が始まろうと言うところで、まさかの乱入者が現れた。
その男は黒いロングコートに黒い手袋、そして真っ黒のフルフェイスヘルメットを身にまとった変質者……もとい大塚だった。
「え、何知り合い?」
更にその後ろには『安全第一』というお決まりのプリントがされている黄色いヘルメットを被った美しい女性。
「おう、親友だぜ!」
「あんたそもそも友達いたんだ」
どこかで見たことがある気がしないでもないその女性と気さくに話をしているところから見ても間違いなく大塚だろう。
「あ、気にしないで始めちゃっていいよ。俺のことはあれ、壁のシミくらいに思ってくれればいいからさ」
そのあっけらかんとした態度に、つい先程までの張り詰めるような緊張感がどこかに言ってしまったのは言うまでもない。
この場で唯一あいつを知らないスコシアさんだけが未だに大塚を見たまま警戒を解いていない。
「おいバカ弟子、あいつはお前の知り合いだったよな」
そんな時、スコシアさんが小さな声で俺に話しかけてきた。
「あぁ、はいまあ、一応俺達と同じタイミングで召喚された勇者の一人ですね」
「……おいおいまじかよ」
引きつった笑みを浮かべながら呟いたスコシアさん。
よく見ればすでに戦闘態勢に入っており、いつでも斬りかかれる態勢になっていることがわかる。
これほどまでにスムーズに、誰にも気が付かれずそんなことができるのか。
「目の前の勇者がお前をボコボコにした勇者で、あの黒いのは別なんだよな?」
「え、そうですけど」
「……あの勇者らしい勇者野郎の10倍以上、あの黒いやつはやべえぞ。5回ほど試しに斬りかかろうとしてみたんだがな、1回も生きて戻ってこられるイメージがわかねえ……何なんだあの野郎は」
スコシアさんは大塚から視線を切らず、ゆっくりと刀から手を離した。
「はぁ、興が削がれた」
スコシアさんは吐き捨てるようにそう言うとそそくさと本陣に戻ろうとしてしまう。
しかしさすが大塚、ここで余計な一言をぶっ放した。
「え、やらないの? せっかくポップコーン用意してたのに。でかいのはおっぱいだけで器はAカップだったか残念。お前は器もEカップを目指せよ?」
「キモ、ウザ、ダル!」
「いやんゆーりん泣いちゃう」
そのやり取りが確実に聞こえていたのか、スコシアさんの足が止まり、手がきつく握られてプルプル震えているのがわかる。
やめろ大塚、これ以上は流石にまずい。この辺り一帯が更地になるぞ……
「まあでも、“そこそこ強い”みたいだし今ここで消耗したくないってのはわかるかな。流石にあの勇者と戦ったら消耗でかそうだし」
“そこそこ”強い。その言葉がギリギリのところで踏みとどまっていたスコシアさんの理性を完全にぶっ飛ばした。
「いいぜやってやろうじゃねえか。そこのクソガキ始末したらてめえの番だ覚悟しやがれ」
完全に目がイッちゃってるスコシアさんが刀を抜き放ち、刀矢の眼前に再びたった。
当の刀矢もまじかよあいつって顔をしてるので裏で繋がってるとかではないようだ。
「逃げるなら今のうちだぞクソガキ」
「生憎と僕は逃げられないんだ。本当は逃げたいけどね」
やれやれといった様子で刀矢も聖剣を構える。
今回はすでに聖剣の二刀流を出していることから最初から全力で行くつもりなんだろう。
にらみ合い、タイミングを探す二人、しかしそのタイミングは突然現れた。
「あ……」
大塚のバカが手を滑らせ、コーラのコップが地面に落ちるのと同時に二人は目にも留まらぬ速さで鍔迫り合いの形になっていた。
「よっと、ところでさ、どういう立ち位置なの君たち」
いつの間にか俺の隣に来てた大塚が話しかけてくる。
立ち位置というのは現王派か新王派かということだろう。
「俺は新王派だけど、刀矢は現王派だな」
「あぁ、なる程ねそういう感じなのか。理解理解」
そう言いながら大塚は何かを考える素振りをした後、おもむろにいくつかの武器を取り出した。
「これはお前で、こっちはあのおっぱい姉ちゃん、坂下にはこれとこれ、巣鴨さんにはこの腕輪でいいかな。渡しといて。あと、こっから先はひたすら戦力温存ってのも伝えておいてくれ……あ、勇者にはこれね」
俺には刀、スコシアさんには3メートルほどの大太刀、坂下にはなぜか向こう側がすけて見えるストールのような物と、ネックレス、巣鴨さんには腕輪、そして刀矢似、と渡されたものは……
「闇の聖剣……」
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