第349話
「―――それがお前の答えなんだな……」
「どうやら友綱は違うみたいだね」
「そうだな、目の前に今苦しんでるやつがいて、今死にそうなやつがいて、それを助けないなんてのは俺の思う勇者じゃねえんだよ」
「―――その考えを否定はしないよ。だけど、大きなことをいきなりするとその反発は必ず起こる。僕は勇者にはなれない……だけど少しでも多くの人を救える道があるのなら、僕はその道を歩みたい! だから反乱は鎮圧する! 俺と、勇者たちで!」
その言葉を聞いて俺はここに来るまでに見た風景がフラッシュバックしてきた。
そうだ、こいつであれば殲滅も容易だったはず。しかし、多くの怪我人がいるだけで、死者については語られていなかった。
こいつはまさか……
「お前……まさか誰も殺さずこの反乱を止めようってのか」
「無理……だろうね。だけど、できるだけ殺したくはない。殺さなくて済むのなら僕は殺さないことを選ぶ。ただそれだけだよ。僕はそこまで強くないから」
悔しそうにそう言いながら剣を持つ手に再び力が入るのがわかる。
「だから、ここは退いてもらう―――来てくれ、アマレット、ミスティア」
空中から現れた柄を再び引き抜けば、握られていたのは光の聖剣。
手にしていた風の聖剣は人形へと変わり、空いたもう片方の手で更にもう一つの柄を引き抜く。
そこに握られていたのはおそらく……雷の聖剣だろう。
「カシス、後衛の対処を頼むよ」
「まったく仕方ないわね!」
そう言いながら風の精霊は巣鴨さんに向けて魔法を放つ。
それが合図になったのか、俺と坂下は同時に動き出し、刀矢に斬りかかる。
「ごめん―――あんまり手加減はできそうにない」
俺と坂下の全力の斬り込みを息一つ乱さずさばきながら反撃までしてくる刀矢。
一体こいつはどんな経験をしてきたってんだよ!
何をしたらここまで俺とあいつの差が開くんだ!
どこから攻めても、坂下とタイミングを如何に合わせようと全く切り崩せない刀矢。
刀矢の持つ光の聖剣に刃をぶつけ、坂下と二人ががりで押すが、刀矢はそれを片腕だけで止めきっている。
これが今の俺と刀矢の力の差なのかよ……ふざけんな……
「ふざけんじゃ―――」
「……エクス・ブレイバー」
鍔迫り合いをしていた聖剣がまばゆい光を放ち、全身に強い衝撃を受け俺は意識を手放した。
この戦いで俺が覚えていられたのはそこまでだった。
これほど圧倒的で、これほどまでに力の差を見せつけられると思わなかった。
邸宅で言われたスコシアさんと同等かもしれないという言葉が現実味を帯びてくる。
それほどまでに力の差があった。しかし、今の俺ではそれが“どれほどの開きなのか”理解することができなかった。
何をすればあいつに勝てるのか。あいつに比べて自分には何が足りていないのか。
そんなことを想像することもできずに、俺達の初陣は敗北で始まったのだ。
目が覚めると、野戦病院代わりに使われている民家のベッドの上だった。
大見得を切って無様に敗北して帰った。
それももちろん悔しいことだが、そんなことより、最初にあった僅かな差が、どうしてこれほどまで大きなものになってしまったのか、あの時の圧倒的な敗北を思い出すと、生きていたことの喜びなんかより、悔しさと無力感が襲いかかってくる。
「―――友綱……」
ガラッと音がしたので、ドアの方に視線を向ければ、全身包帯まみれで、目には涙を浮かべて立っている坂下の姿が見えた。
そうか―――俺なんかより坂下のほうがきついよな。
坂下はあいつのこと……
「友綱……ともつな……ともつなぁぁぁあ!」
俺の顔を見るなり、涙を浮かべながら抱きついてくる坂下。
嗚咽のたびに上下する彼女の肩を抱き、背中を擦る。
「わたし……くやしいよ……あんなに努力したのに、頑張ったのに……刀矢に勝てなかった! あんなにぼろぼろにされて……」
俺は泣きじゃくる坂下に対し、何も言ってやれなかった。
多少は強くなった気でいたが、足りなかったんだ。
俺達の努力も俺達の覚悟も。
本当はあいつの目を見たときからわかってた。
あいつは俺達に攻撃することを迷ってなかった。
だけど、俺は直前まで迷って、悩んでた。
俺達の中じゃ、巣鴨さんだけが刀矢と同じくらいの覚悟を持っていたんだなって、今更ながらに思った。
だけど、それでも届かない。覚悟を今持ったとしてもあの刀矢には逆立ちしたって勝てっこない。
なら、俺達は一体どうしたらいいんだ……
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