第348話
巣鴨さんがキレた。
そのヤバさに最初に気がついたのは坂下だったみたいで、急いで俺の所に飛んできて、俺のことを小脇に抱え、そのまま大きく後方に飛んだ。
俺は状況が一切理解できず、小脇に抱えられていたということもあってその後に何が起きたのか全てを目撃してしまった。
―――あれはやばい。
問答無用で放たれた攻撃魔法。
周囲は暴風に包まれ、その暴風の中を礫が超高速で飛び回り、川辺たちがボロボロの状態で膝をついたと思ったら今度は地面から火柱がいくつも上がってた。
え、巣鴨さんマジで怖すぎない?
「―――私だけ何もしないなんて嫌です。せめて、少しでも“友綱くん”の傷を軽くできるなら……私だって戦える!」
一方的な攻撃が収まり、ギリギリの状態で経っていた川辺たち。
流石に今の攻撃で戦うしかないとわかったのか、範囲攻撃の的にならないように散開し、巣鴨さんに向かっていくが、巣鴨さんが手に持っている魔導書がパラパラとめくられ、巣鴨さんの背後に複数の魔法陣が浮かび上がる。
「―――ごめんなさい」
放たれたのは光の矢。
そこに込められた魔力量を察したのか全員防御ではなく回避に切り替え、動き出すが、まるでそれを計算していたかのように全ての光の矢の弾道が彼らを追尾する。
三岳、川辺、佐藤、霧島がその矢に打たれ倒れる中、鳥飼だけは回避に移るのが早かったのかまだ矢から逃げている。
改めて思う俺達と彼らとの力の差。
俺達の努力は無駄ではなかったと、着実に成長していると思える程の圧倒的な差を今理解した。
最後の矢が鳥飼を捉える直前、光の矢が何者かに掴み取られた。
「―――なっ!」
「なんで……どうして……」
表情こそ見えないが巣鴨さんがどんな表情をしているのかよく分かる。
俺も同じ気持ちだった。
どうしてお前が……なんでお前がそこにいるんだよ。
「刀矢ぁぁぁぁぁああ!!!!」
「―――悪いけど、僕はこっち側なんだ」
意図も容易く光の矢を握りつぶしてみせた刀矢。
顔を伏せ、視線を下げる刀矢だが、しかしその瞳には確かに覚悟がった。
「刀矢! なんであんたが!」
「ごめん坂下」
顔をあげることも無いまま、刀矢は宙空に手をのばす。
「―――来てくれカシス」
突如空中に現れた剣の柄を握りしめると、抜刀するが如くそれを引き抜いた刀矢。
抜き放たれた剣は話に聞いていた聖剣だろう。あいつが保有する三本の聖剣の一つ―――風の聖剣。
「申し訳ないけど僕にも僕の戦いがある。ここは譲れない」
巣鴨さんが一応で張った結界を容易く切り裂きながら、俺と坂下に向けて急接近してくる刀矢に向け俺は居合を放つ。
「我流:瞬閃!」
俺の刃と刀矢の聖剣がぶつかり合い、激しい衝撃波を生み出し鍔迫り合いにもつれ込む。
しかしこれでいい。最初からこれで仕留められるほど甘いやつじゃないと思ってた。
「坂下っ!」
「うん!」
ガンナーの双銃から放たれる弾幕。俺と切り合いながらこれを処理するのは流石に難しいだろう。
そう思ったが、刀矢の左手に魔力が集まり、そのまま俺の刀の刀身を素手で握ると、刀ごと強く引っ張られる。
想像以上に強力な刀矢の腕力と、鍔迫り合いの状態からだったということもあり、俺は態勢を崩し、刀矢のいたところまで引っ張られてしまう。
更に刀矢は俺を引っ張る力を利用し、俺と綺麗に場所が入れ替わるような位置関係になってしまった。
―――やばい。
そう思った瞬間には全身に坂下の放った弾丸がぶつかるのがわかる。
スコシアさんに鍛えられ、魔力を鎧のようにまとっていなければ今ので終わっていただろう。
「―――巣鴨さんか」
即座に俺の怪我が治ったのを見た刀矢は俺達から巣鴨さんにターゲットを変えたようで、巣鴨さんに向け斬撃を飛ばす。
「―――セイントクロス」
十字に振るわれた光の斬撃が巣鴨さんに向けて突き進む中、刀矢は再び俺に切りかかり、背後でドレスアップのアサシンによって気配を限りなく消していた坂下の元でいつから仕掛けていたのかわからない地雷のような魔法が炸裂した。
「刀矢てめぇ! また洗脳されたってのか!」
「洗脳はとっくに解けてるよ。だけど―――」
言いかけたところで先程の斬撃を防ぎきった巣鴨さんの放った風属性の不可視の刃を避け、俺達から距離を取った刀矢。
「―――力で得た王権になんの意味があるんだ……そんなんじゃ今と何も変わらない。本当に変えるなら内側から変えていかないと国民も貴族も何も今と変わらないままだ!」
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