第347話
目の前の兵士を切り捨てる。
痛みを感じるまもなく、命が失われたことに気がつくまもなく死んだんだろう。
せめて苦しまないように。せめて少しでも痛みを感じさせないように。
そう思い、向かってくる敵を全力で切り捨てていく。
人を殺した。そんなことは頭では理解している。しかし、感情が追いつかない。
それほどまでに溢れ出してくる正規兵が多く、感傷に浸る時間も涙を流す余裕も無い。
あるのは手に残る肉を裂き、骨を断ち切る感覚と、生暖かい返り血の匂いだけだった。
坂下も同じような状況らしく、俺と坂下は反乱軍の目印である赤い布を腕に巻いていないものをひたすら切り倒していく。
少し離れたところで俺達の支援をしてくれている巣鴨さんも、先程少し様子を見たが大丈夫だろう。
涙こそ流してはいるものの、その瞳には覚悟が宿っていた。
「だァァァァっ!!!」
切りかかってきた騎士装束の男を切り倒し、すかさず背後で魔法の詠唱を行っている魔法使いも切り捨てる。
今ので少し余裕ができて坂下の方を見てみれば、坂下は剣で戦わず、新しいドレスアップの“ガンナー”という姿に成り、両手に持った銃から弾丸をばらまいている。
「友綱! そっちはどう!?」
「あぁ、こっちは一段落した」
そう言いながらも坂下の方に向かう兵士を切り、少しでも彼女の負担を減らす。
「騎士が甲冑着てるからもしかしたら跳弾するかも!」
「わかった気をつける」
今の俺の動体視力なら跳弾で弾速の落ちた球なら視認してから回避もできる。
少し気にかけていれば問題ないだろう。
それに俺達が来てから明らかに俺達に敵が集まり始めてる。
幸いまだ勇者たちは見えていないが、他の場所で戦っている人たちの負担を少しでも減らせたんじゃないだろうか。
「宮崎さん! 新手5人! 14時から来ます!」
少し気を抜けるかとも思った矢先、周囲の索敵を行ってくれていた巣鴨さんが声を上げる。
どうにも休ませてはくれないみたいだな。
「対象は勇者です! 気をつけて!」
その声で今までの緊張感とはまた違った、別の緊張感が背筋を駆け抜ける。
ついに来たかという気持ちと、俺に本当にやれるのかという不安が溢れ出してくる。
「……友綱くん?」
俺達の前に現れたのは案の定顔見知り。しかもそれなりに仲の良かった人たちだった。
たしか、全員運動部で、成績もそれなりに良かったはず。
「佐藤、霧島、三岳、川辺、それに……鳥飼か……」
佐藤、霧島、鳥飼は女だが、部活での成績もかなりいい。クラスのカーストは上位だった覚えがある。
それに川辺と三岳は同じ部活で、確かバスケだったか。
「すまんが、今俺達は敵だ。死にたくないのなら今すぐそこをどいてくれ」
彼らに目を合わせずに言えば、川辺と三岳が焦ったようにこちらに声を掛けてくる。
「な、何いってんだよ……俺達同じ勇者じゃないか……なんで俺達が……戦わないと行けないんだよ……」
「そうだ! 王国には良くしてもらったのに、その恩を仇で返すってのかよ友綱ァ!」
「申し訳ないけど、俺は王国に良くしてもらったなんて思って無い。それに、俺はこの世界にも大事なものができちまったんだ。すまん……」
「そ、そんなのないよ! だって、私達クラスメイトだよ!? それでも私達と戦うの!?」
今の言葉に言い返そうとした時、俺よりも先に巣鴨さんが返答をしていた。
「―――あなた達は何をしにここに来たんですか。私達は……大事な人を守るために来ました。なんの覚悟も持たずここに来たのなら今すぐそこをどいてください。私達にはyら無くてはならないことがあるんです。戦わないといけない理由があるんです。もしあなた達に覚悟も理由も無いというのなら、自分が一番傷つく道ってわかってるのに、それを選んだ……私の勇者の前に立たないで!」
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