第346話
一日ゆっくりと休暇をもらって体を休めたあと、俺達はついに戦場に駆り出されることになった。
これから戦うのが魔物ではなく、人間。それも俺達と同じ世界から来た元クラスメイトたち。
その現実が俺達の肩には重くのしかかっている。
現在戦端が開かれているというランバージャック城の城下町。そこでは反乱軍と正規軍の激しい戦いが繰り広げられているが、俺達以外の勇者はどうやらそこで戦っているらしい。
当然俺達が向かうのも城下町になる。
「最後にもう一度聞くぞ、覚悟は良いな?」
「―――はい。たとえ昔の仲間でも、戦わないといけないなら俺は……」
「じゃあ気張って行って来い。帰ったら私の晩酌に付き合え」
スコシアさんは視線をこちらに向けることはなく、馬車の窓から外を眺めたままそういった。
いつもと違い、少しだけ弱気なその表情がとても印象的だった。
「お待ちしておりました。現在友軍騎士団との戦闘は城下南方で行われております。どうぞこちらに」
甲冑を身にまとった人にそう言われ、俺達は馬車から降りて彼についていく。
目的地はおそらくこの地区の本陣が置かれている場所だろう。
その道中の俺達に対する視線は憎しみや恨みを多く孕んだものだった。
路上に倒れ込む兵士、壁に背を預けこちらに鋭い視線を送ってくる騎士、露骨に舌打ちをして見せる傭兵など、様々な人がいた。
当然だ。俺達も勇者なんだ。ここにいる人の殆どが勇者によってこれだけの被害を受けているんだからそれは仕方がないことだ。
「お待ちしておりました」
貴族の邸宅と呼んで差し支えのない場所で俺達を迎えられた。
「早速戦場に向かっていただくことになっております。このことについては申し訳ございません。本来であれば幾ばくかの休息を挟んでいただきたいのですが、どうもそんな事を言っていられる状況ではなくなってしまったので」
どうやら俺達が聞いていた話よりも状況はひどいらしく、俺達を迎えてくれた初老の男性の目にもあまり生気を感じられない。
「あれからまた何かあったんですか」
「いえ、ただ……」
少しだけ言いにくそうに視線を横に流した初老の男性。
しかし一度ため息を吐き出すと再び話を続けた。
「一人、恐ろしく強い勇者がおり、その者が前線に出るようになってから我らの被害が絶大になり……はっきり申しますとあの怪物とまともに戦えるのはスコシア様くらいかと考えておりました」
それが言いにくそうにしていた理由か。
「確かに俺達は見た目はそこまで強そうではないかもしれませんが、街に残った勇者たちと比べてほしくはありません。俺達はずっと戦ってきた。ずっと訓練を続けてきました。街で暮らしていた皆とはレベルが違います」
「そうだね、私らずっと頑張ってきたんだし、負けられない」
俺の言葉に坂下が反応し、それを見た初老の男性は少しだけ先程よりも目に生気が戻ったと思う。
「では俺達はもう行きます」
「騎士の一人に案内させましょう」
「ありがとうございます」
「くれぐれもお気をつけて」
そういった男性の瞳は、本当に俺達のことも心配してくれているようで、この人は本当に優しい人なんだということがわかる。
これだけでもここに来た意味はあったと思う。
「私が案内します。ついてきてください」
横に控えていた騎士が声を掛けてきて、俺達はその言葉に一度うなずき、彼の後をついていった。
「あそこに見える建物の向こう側で現在も戦闘が続いております」
指さされたのは王都のメインストリート近くの大きな雑貨店の屋根だった。
あまりにも巨大な建造物だったので少し前に王都にいた時から知っていた場所だった。
そこで騎士の方は報告があるとのことで先に本陣へ戻っていった。その後姿を見送り、俺達も先程の騎士が言っていた建物の向こう側に向け脚を進める。
近付くごとに迫力を増す雄叫びや金属同士が打ち付けられる音、何かが破壊される音。
これが戦争。これから俺達は人を殺す……
そう思うと自然と刀の柄に手が伸びてしまう。
「大丈夫」
「大丈夫です」
しかし、そんな俺を見かねて巣鴨さんと坂下が柄に乗せられた俺の手に自分たちの手を重ねてきた。
「私達は確かにこれから戦争に行くけど、殺すために行くんじゃない。この国を救うために行くの」
「そうですよ。私は宮本さんが本当は優しいことも仲間思いなことも知ってます。だからこれからの戦いはすごく辛いともいますが、それでも“この世界でできた大切な人”のために私達は戦うんです」
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