第344話
その後何とかトミントゥールさんが仲裁に入り、懐から便箋のようなものを取り出したところで、二人の男は大きく息を吐き出した。
「はぁ、俺あのままだったら死んでましたよ……」
「俺たちが見張りの時に……ついてないな……」
そういって二人は互いに胸をなでおろしていた。
ある程度の手練れになればスコシアさんを見ただけで"やべえ"ということに気が付けるし、そもそも儀礼的にそう声をかけなくてはならなかったのだろう。本当にかわいそうに。声をかけても死、かけなくても罪。なら俺は確実に声をかけないと思う。
誰だって死ぬのは怖いだろ!
いくらなんでも死ぬより重い罪には相当なことにならない限りならないだろうし。
安堵の息を吐き出している二人の間をスコシアさんはドヤ顔で通っていく。
それを横目に通信用の水晶を持っている方の英雄が水晶に向けて小声でなにかを話しているのが見えた。
おそらくスコシアさんの話を上層部に通しているのだろう。
「おい、何してやがんださっさと行くぞ」
「はいはい今行きますよ」
スコシアさんにせっつかれ俺は彼女の後ろについていく。
そのもう少し後ろにトミントゥールさん、坂下、そして巣鴨さんが続く形となった。
どうにもスコシアさんのことを二人は警戒しているようで、あまり不用意に近寄ろうとしないのだ。
街壁をくぐり抜け、街の中心地に向かって歩みを進める中、周囲を見渡せば、先の争いで傷を受けた人たちなのだろうか。民家を改造しそこを療養所にしているようだ。
中には腕がない者、すでに息絶えている人も見て取れる。
前回の戦いが以下に苛烈だったかを物語ってくる。
「王がどうとか、国がどうとか、暮らしてる人間にとっちゃそんなもんどうでもいいんだ。だけどな、アイツらの戦いで傷つくのはいつだってコイツらなんだ。てめえの勝手な都合で戦いに駆り出される国民は何が正しくて何が間違ってるのかもわからねえまま命をかけさせられる。そんな事あっちゃいけねえんだ。だから私らは先頭に立って誰よりも多く殺して誰よりも多く返り血を浴びなきゃいけねえ。何も知らないまま命をかけさせられる連中が少しでも少なくなるようにしないといけねえんだ」
こちらに視線も向けず、一人そういうスコシアさんの瞳はなにか強い意志のようなものを感じさせた。
「俺は戦うことしかできないから、だからスコシアさんの言ってること少しだけわかる気がします。俺も……こんな戦い、もう起こさせないために、これ以上続けさせないために、戦います」
自分の手を強く握りしめながらそう呟いた途端、二カッと笑みを浮かべたスコシアさんが俺の頭をいつもより少しだけ強く、乱暴に撫でてきた。
「ほんっと威勢だけはいいじゃねえか! だけど……その気持忘れるんじゃねえぞ」
一通り撫で回して満足したのか、スコシアさんは手をはなし、また歩き始めてしまった。
この人のこういうところをもっと知ればあの二人もスコシアさんへの警戒を解いてくれるんだろうけど、それはまだまだ先のことになりそうだ。
後ろを振り向けばこちらに怪しげな視線を向けてくる坂下と巣鴨さんの姿が見えた。
しばらく歩き続け、ようやく到着したのは凡そ砦と呼んで差し支えのないものだった。
街の外壁が破られた際はこの砦に立て籠もるのだろう。そのための設備というか、ここまで来る最中にも道の端に避けられた馬防柵のようなものがいくつも見れた。
砦の中に入るには再度警備の英雄たちに声をかけ、通信を行ってから中に入ることを認められた。
「どうもお待ちしておりましたスコシア様、勇者の皆様」
そういって俺たちを歓迎してくれたのは金色の長髪をした男だった。
小綺麗な服装はこの無骨な砦に似つかわしくない程に行き渡っており、その周囲を固めている連中もそうだった。
それを見たスコシアさんは小さく舌打ちをした後、名乗りを上げた。
「歓楽都市の領主スコシアだ。んで後ろの奴らはなまくら1号とポンコツ1号、それと何でも直してくれる修理屋だな」
「待って!? 俺なまくら1号なの!? というか修理屋って巣鴨さんのこと!? 俺玩具扱いだったの!? 玩具扱いで殺されてたの!?」
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