第343話

 スコシアさんに稽古をつけてもらうようになって暫く時間が経った頃、俺達は王都ランバージャックに戻ってきた。


 その理由は二つあって、まず一つ目にランバージャックの王都から呼び出しがあったからだ。

 何でも前々から話題に上がっていたクーデターが激化してきて、協力をお願いしたいというのだ。

 そして二つ目がそのクーデターに俺たちが参加するためだった。

 

 歓楽都市セーラムに来てからスコシアさんが様々な情報をくれるようになった。

 歓楽都市というだけあり、この都市では皆の気が緩むことが多く、そこで諜報活動も行っているそうだ。

 その情報網に引っかかったのが今回の王都ランバージャックでの勇者召喚の実態と、これまでのランバージャックの腐敗についてだった。


 俺たちの想像を遥かに超える度合いでランバージャックはやばいことになっていた。

 俺たちの召喚の理由は軍事利用と"燃料"だった。

 勇者というのは勇者というだけで膨大な力を有している。そしてその力を別のモノを召喚するために使うのだという。

 その召喚するモノというのが何なのかまではわからないらしいが、これだけの勇者を使って召喚するモノなどどのみちろくなモノではないらしい。


 そんなことを許せばこれまで以上に世界が混乱してしまう。そればかりか魔王の脅威に立ちむかう力さえなくなってしまうかもしれない。


 俺や坂下、須鴨さんはそういった理由で今回クーデターに参加することになった。

 そしてスコシアさんも今回クーデター側で参戦するとのことだった。


「準備はできてるんだろうなァガキども」


 スコシアさんが凶暴な笑みを浮かべながらこちらを見てきた。

 俺は腰に差した刀の位置を直し気合を入れるとスコシアさんに視線を合わせた。


「はい! できてま―――」


「ばっちりでーす!」


「わ、わたしも、だいじょうぶです!」


 坂下が元気よく手をあげながら返事をしたことにより、俺の声はかき消され、若干俺に気を使うような視線を送ってきた須鴨さんも俺から視線を切るとスコシアさんに視線を合わせ声をあげた。


 俺の扱いひどくないかな……


 それから四人で荷物を詰め込み馬車に乗り込んだが、なぜか俺の隣には巣鴨さんではなくスコシアさんが腰かけていた。

 どうして隣に座ろうとしてくれた須鴨さんをどかして猛禽類じみた鋭い視線を送ってくるスコシアさんなんだよ。

 おかしいだろ確実にこの人俺のこと獲物くらいにしか思ってないし稽古中に何回も殺して来るしほんと今日はダメな日なんじゃないかな。


 あ、ちなみに須鴨さんとの関係は全然進展しなかった。ちょっといい雰囲気になることもあったけど、それ以外は俺大抵死んでたし。


 ホント今思い出してもあれは修行だったのかそれともただの虐殺だったのかわからないんだよな。


 それからトミントゥールさんに御者をお願いしながら王都に向けて移動を開始した。


 その道中に一度盗賊に遭遇してしまったがスコシアさんのおもちゃになり、粉々にされてた。

 かわいそうに。


 そんなこんなで革命軍(仮)が拠点としているランバージャック近郊の都市であるキャメルに到着した。


 キャメルはすでに半壊状態になっていたがそれでも街の中心地には砦のようなものが建てられており、日本の建築技術じゃ到底不可能だが魔法という力があるこの世界ならではの状況なんだろうとおもう。


 そこからは馬車を降り、徒歩での移動になったのだが、砦に近づくにつれ、周囲の空気がピンと張りつめたように鋭いものに変わっていく。肌を刺すような緊張感のせいで暑くも無いのに汗が流れ落ちてきた。

 

 それを腕でぬぐおうとした瞬間、俺たちの前に二人の男がやってきた。


「何者だ」


 そう声をかけてきたのは、言うまでもなく英雄と呼ばれる存在だった。

 それが二人おり、片方は声をかけてきた男の背後で水晶のようなものを手に持っている。


 おそらく通信用の道具なのだろう。


「こちらの方々は歓楽都市セーラムの領主スコシア様とそのお弟子様方でございます」


 俺達を代表してトミントゥールさんが口を開く。

 トミントゥールさんの言った名前にわずかばかりの動揺を見せた男たちだが、すぐに視線を先ほどの鋭いものに戻した。


「何か身分を証明できるものはあるか」


「身分の証明だぁ? 呼ばれたから来てみりゃずいぶんなお出迎えじゃねえか。証明してほしいってんならてめえらの頭吹っ飛ばして私の力から証明してやろうか?」


 それはもうずいぶんと楽しそうにそう言い放ったスコシアさん。この様子から見るに、相手の人たちは相当な手練れであり、スコシアさんが遊んでみたくなってしまうほどの力量を持っているのだろう。



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