第341話
「よくも…やってくれたね……」
そう言って門から這い出してきた男。
おそらく先程と同じことをしてももう通用しないだろう。
「―――仕方ねえな」
そう言って今度は彼の体の周囲に赤いオーラが溢れ出す。
これは最初に彼と戦ったときにも見せた……確か“闘気”と呼ばれるものだったはず。
私も噂程度に聞いたことがある。
闘気とは一部の英雄クラスの人が発現することができる“加護の意図的暴走”だと。
加護を通常ではありえない量全身に流すことで身体能力、戦闘能力を大幅に向上させることができるんだとか。
「―――行くぜ」
そう言った瞬間、一人の英雄のお腹から、彼の持ち赤い槍が生えていた。
移動も、踏み込みも、何もかも私に見ることは出来なかった。
視認するよりも早く攻撃を終えていたのだ。
「―――しゃァ! 次っ!」
英雄を貫いた槍を抜き放ち、槍についた血を払った。
シーバスさんが移動するたびに、その軌跡を赤い閃光が追従していく。
そして不規則に打ち鳴らされる金属音がしばらくと続いた後、私の前に額に汗を浮かべたシーバスさんが膝をついていた。
大きな怪我はないように見えたけど、それでも何箇所も怪我をしているし、衰弱に近い症状も出ているのではないかと思う。
おそらくこれはあの闘気を使った後遺症のようなものだろう。
あれだけの力を発揮したのだからその代償は必ずあるはずだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、ったく、しんどいわマジで……」
そうは言いながらもまだまだ諦めた気配は微塵も感じないシーバスさん。
依然として彼の召喚する英雄たちはその数を変えることなく、撃破されると同時に追加されているが、それでもシーバスさんはなにかに気がついたようで、口角をあげていた。
「―――うっし、逃げんぞ!」
しかし、その表情から一転して、今度は洞窟の中に逃げ出したシーバスさん。
私は建築資材よろしく肩に担ぎ上げられ、背後から若干焦ったような表情で追いかけてくる英雄たちを見つめながらも素直に運ばれた。
しばらく洞窟の中を進み、開けた場所に出たところでシーバスさんは私をおろし、再び槍を構えた。
「だ、大丈夫なんですか……」
敵は無尽蔵に英雄を召喚できるという販促も良いところの力を持っている。
如何にシーバスさんが最強ルーキーであろうと流石に厳しいのではという考えが頭をよぎる。
「大丈夫だ。あいつの能力はもう解析ができてる」
しかし、私の考えとは裏腹に、シーバスさんは自信満々な笑みを浮かべると何も掴んでいない方の手を勢い良く振り抜いた。
「―――これで3人」
次に、槍を地面に刺し、手でなにかの印のような物を結び初めた。
「―――陣術【幻草の庭園】」
「―――陣術【生き埋めの渓谷】」
「―――陣術【泡の夢】」
「ぐッ……陣術【屍の聖典】」
額から玉のような汗を流しながら印を組み続けるシーバスさん。
一つの術を口にするたびにシーバスさんの顔色はどんどん悪くなっていくが、それでもお構いなしに次の印を結んだ。
「―――陣、術……【酔闇の標】」
一通り印を結び終えると、今度は槍を持ち、広場の唯一の出入り口に視線を向けた。
「―――お出ましだぜ」
シーバスさんがそう言うと同時に、二人の英雄を伴ったあの男が広場に姿を現せた。
「―――よう、お仲間は道草でもくってんのかい?」
「……厄介だねお前。ここで殺しておいて損はない。むしろ、生かしておくと面倒なことこの上ない」
そういった男が虚空に手をかざすと、そこから禍々しい剣の柄が現れ、それを勢いよく引き抜く。
それと同時に、二人の英雄がシーバスさんに向かって飛びかかってきた。
「残念だがな、ここは俺の“
その瞬間、飛び込んできたうちの一人が不自然な状態で動きを止め、もうひとりが地面からせり出してきた数多の武器をギリギリのところで回避し、空中に大きく飛び上がっていた。
「そりゃ悪手だろうよ」
空中では回避できないからこそ、シーバスさんは飛び上がった英雄に向け、5本の札がくくりつけられたナイフを投擲した。
「陣術―――五芒結界」
胸、両手、両足に突き刺さったナイフから青い色素を含んだ半透明の結界が展開され、空中で動きを封じられた英雄が苦悶の声とともに自由落下を始める。
それを見つめながら、一度足をその場で踏み鳴らしたシーバスさんが小さな声でつぶやいた。
「奈落」
その言葉に呼応するように、英雄が落下するであろう場所にできた底が見えないような禍々しい穴。
奈落は英雄を吸い込むと、役目を終えたかのようにその姿を消し去った。
「―――いまので77体目。お前が同時に召喚可能な英雄全員“生きたまま”とっ捕まえてやったぜ?」
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