第340話 集中しようとしてコーヒー飲むとトイレ近くて集中切れる

 ―――圧倒的。

 まさしくその言葉が今の戦いにふさわしい。


 おそらく彼らの戦闘スタイルは片手剣の人がヘイトを集め、弓の人が牽制を行い、斧の人が決める、というようなスタイルだったのではないかと思う。


 しかし、それをシーバスさんは戦いの序盤で見抜き、即座にそれを崩してみせた。


 戦いのあとから感想としてわかった私とはちがい、戦いの中で分析してそれを見抜き、最初の一手で全てを壊してしまう。


 これがNO1ルーキーと言われる人の力なんだ。


 しかし――――ゆっくりと洞窟内に戻ろうとする彼が、足を止めた。


 途端に周囲を埋め尽くす緊張感。

 足が震え、私はその場に立っていることも辛くなってしまい、壁に体を預けなければならないほどだった。


「―――真打ち登場ってか?」


少しだけ疲れたような顔をしながらシーバスさんが振り返ると、さっきまであの3人しか居なかったはずの場所に、あの目立たない男の人と、複数の英雄クラスとわかる人が現れていた。


「―――いいぜ、相手になってやる」


 シーバスさんはそう言うと、先ほどとは異なり手に槍を持ち、腰を落として構えを取った。


 ただそれだけのことなのに、先ほどまでとは比べ物にならない威圧感プレッシャーを放っている。


「……やれ」


 黒い扉を開けている男性の一声で、周囲の10名ほどの英雄が一斉にシーバスさんに襲いかかる。


 しかし、それを見たシーバスさんはなぜか笑みを浮かべ、そして―――


「陣術―――雷撃陣」


 シーバスさんと彼らを隔てる様に稲妻が立ち上り、シーバスさんはその先にナイフをいくつもその雷撃陣に向かって投げつけた。


「―――早速とっておきだ! 合陣【剛雷槍

】」


 シーバスさんの手から放たれたナイフが雷撃陣を通過した瞬間、地面から溢れ出した雷が全てナイフに収束し、合計5本の槍の様な形に変化した。


 私の目では、そこまでしか見ることができなかった。


 しかし、その場に残された惨状を見て、予想ができる。


 ナイフが雷撃陣を通過すると同時に、雷の槍に変化。

 その速度もまた爆発的に上昇し、こちらに向かって来た英雄10名のうち3名の体を吹き飛ばすほどの威力に変化したんだ、と思う。


 槍の通った場所は地面がえぐれ、抉れた地面は熱を持って赤くなっている。


―――しかし、そのうちの一つ、あの扉を開く男に向かっていったはずの地面のえぐれは、彼の前でパタリと消失してしまっている。


「……くふふ、弱い弱い、そんな物、僕に届かない」


「ちっ、まぁそうだろうよっ!」


 悪態を吐きながら先程の攻撃を免れた英雄たちが襲いかかる。


「ハァッ!!」


 今まで攻撃を交わし続けてきていたシーバスさんだけど、ついに一人の英雄の攻撃をガードさせられた。

 少しずつ英雄たちがシーバスさんの動きを見切り始めているのだろうか。


「厄介な連中だな……」


 先程シーバスさんに攻撃をした英雄の眼前で雷が炸裂し、その視界を奪う。

 その隙にシーバスさんがナイフを投擲、そのナイフは吸い込まれるように男の頭部を捉えた。


「……無駄無駄。ぼくの、人形はいくらでも、増やせる……」


 もし仮にその言葉が本当だとしたら……

 そんなの、勝ち目がない……ただでさえ強力な英雄が無尽蔵に生まれるなんて…


「いくらでも……ねぇ…」


 そう言ったシーバスさんは周囲に拳と同じ大きさくらいの金属の塊を投げた。


 ―――カッ!

 っと、周囲に閃光が駆け抜け、それを直視してしまった英雄たちの足が一瞬止まる。


「……ぐっ…な、なに」


「無尽蔵って言っても、お前がいる限りだろ?」


 そう言ってシーバスさんは閃光が消え去ると同時にあの門を出している男の懐に潜り込んでいた。


「喰らいな」


 そう言って突き出された槍は周囲の空気を絡め取り、一直線に彼に直進していく。


「―――チッ」


 舌打ちを一つ落とし、男はシーバスさんの繰り出した槍の威力を使い、自身が作り出した門の中に入っていった。


 それと同時に、先程までの機敏な動きが嘘のように英雄達の動きが鈍った。


「―――遠隔操作になればなるほど脆いってことかね」


 ニヤリと笑みを浮かべたシーバスさんの勢いは一層増していき、またたく間に周囲の英雄たちを薙ぎ払っていく。


 しかし、丁度1分、あの男が門の中に消えてから1分して男が戻ってきてしまった。

 そしてそれに呼応するように動きのキレを取り戻した英雄たち。


それを見て今度はシーバスさんが舌打ちを一つ落とした。

 

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