第339話 タバコ休憩を認める代わりに、ソシャゲの体力満タン休憩もください
「まぁ、よく持ったって思うことにしておくかな」
身なりを整え終えたシーバスさんが立ち上がる。
「シーバスさん…」
「大丈夫。あんたは俺が守るよ」
そう言って私を抱きしめてくれる。
この暗くて閉鎖的な空間に姿を隠してから幾度となく、私を落ち着かせてくれたのが、シーバスさんの優しいハグだった。
一介の受付嬢でしかない私にとって、この閉鎖的な空間で何日も過ごすのは精神的なストレスがすごいことだと言われた。
それだけではなく、命を狙われている状況、逃げ続けなくてはならない状況、話をする相手が居ない状況、これら全てからも絶大なストレスを受けていると教えてもらった。
そして、シーバスさんの言っていたことは本当だった。
4日めの夕方、彼が居なくなってわずか数分で私は発狂してしまった。
何故かわからないまま涙が溢れ出し、頭をかきむしりながら悲鳴を上げ続けていたそうだ。
急いで戻ってきたシーバスさんに落ち着かされ、その日は事なきを得たが、後日、私は無意識のうちに死のうとしていたらしい。
記憶にはないのだが、洞窟の壁めがけて何度も頭を打ち付けていたそうだ。
そんな私を彼は何度も優しく抱きとめ、大丈夫と声をかけ続けてくれた。
だからこそ、かれの言葉を私は信じている。誰よりも、何よりも。
「見つかった以上は籠城戦になる。幸いこの前食材はかなり多めに買い足しているし、罠の材料も豊富だ。これだけあれば数ヶ月は…切り詰めれば半年くらいまではここに籠城できると思う。その間に今回にクーデターが一通り解決するのを待つしかねえわけだが、あんたには辛い環境だと思う。それでも、俺と一緒に頑張ってくれねえか」
そんなの、私の答えは決まっている。
聞かれるまでもない。むしろ、私はあなたに守られてばかりなのに、どうしてあなたはそんなに私に優しくしてくれるの?
「んじゃ、ちょっといって追い返してくるわ」
そう言って出ていこうとする彼のコートの裾をつい、掴んでしまった。
「……ん?」
「私も……行かせてください…足手まといにはなりません! 戦闘中も離れてます。姿もずっと隠してます。だから、どうかお願いします……」
「いや、でも……」
「離れたくないんです……あなたのそばから、片時たりとも……」
私がそう言うと、彼はいつもどおりの笑みを浮かべ、私の頭を優しくなでた。
「わかったよ。その代わり、この外套を脱がないでくれ。これは“存在を認識されにくくなる”効果のある外套なんだ」
ぱさりと私に掛けられた茶色の外套。
一見するとどこにでもありそうな外套なのに、そんな効果があるものなんだ。
「じゃあ行くか」
そう言って彼は洞窟の中を進む。
その背後から私も彼を見失わないように必死でついていった。
歩いている最中も時折止まると彼は何かを仕掛けてはそれを隠していた。
おそらく先程話した罠の準備なんだろう。
更に出口に向かって進んでいくと、ついに光が差し込んでくるくらい浅いところまで着てしまった。
「どうやら不用心に入ってくるって感じじゃなさそうだな、残念」
これだけの罠を張り巡らせている洞窟は、もはや彼の要塞と言っても差し支えないのではないか。
それほどまでに彼は様々な罠を張り巡らせ、それを掻い潜る方法を私に教えてくれた。
「―――この前の連中―――じゃないな」
洞窟内から目を凝らして外を見るシーバスさん。
流石に英雄でもなんでもない私ではこの距離を視認することは難しいので取り合えずうなずいておいた。
その後シーバスさんはしばらく考えたあと、一気に洞窟の外に飛び出していってしまった。
流石にこれには私も驚き、気が付かれないように洞窟の出口付近まで近寄って彼の姿が見える位置に身を潜めた。
「なんだあんたら、この先になにか用か?」
シーバスさんの突然の登場におそらく冒険者のような風体の男たちは驚きながらも、瞬時に武器を抜き放っていた。
「―――あんたがシーバス・リーガルだな」
「俺たちはあんたが連れ去った重要参考人に用事があるだけさ」
「まあ、可能であればあんたも生け捕りにすりゃ懸賞金が入って来るんだがな」
彼らの構成は大きな斧を持っている者、弓を持っている者、片手剣と小回りの効きそうなバックラーを持っている者の3人だった。
見るからに戦いなれているであろう彼らを見て、私の中に一抹の不安がよぎる。
「まさかあんたら俺に勝てると思ってる? それは少しなめ過ぎじゃないか?」
別に合図があったわけでもなく、片手剣の男が飛び出してきてシーバスさんに斬りかかった。
「―――遅せぇよ」
しかし、次の瞬間には片手剣の男は吹き飛ばされ、後方で弓を構えた男にぶつかり、二人共気を失ってしまった。
しかし、その隙を突くかのようにすでに斧の男がシーバスさんの側面に周り、その斧を振り下ろそうとしていた。
―――危ないっ!
目の前の相手に気を取られてしまい、外から見ている私でも接近に気がつけなかった。
しかし、シーバスさんは迫りくる斧など眼中にないとばかりに、すでに私の方へ振り向いていた。
「―――雷撃陣」
彼の言葉と同時に“地面から”立ち上った稲妻に討たれ、斧の男が黒焦げになっていた。
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