第338話 卵ってパックから出しとくと賞味期限わからなくなる
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「大丈夫ですか!? すごい血が……早く病院にっ!」
薄暗い洞窟の中でシーバスさんがうめき声を上げる。
呼吸は浅く、額には脂汗が浮かび上がっている。
見るからに重症の怪我を追っていながらも、シーバスさんは
思い出す、あの行く手を阻んだ三人―――いや、本当にやばかったのはその中でもたった一人。
あの影のうすそうな男の人だった。
「何なんだよあれは……あんな化け物どっから引っ張ってきやがった…」
最初の二人を苦戦しながらも大きなダメージを受けることなく倒したシーバスさん。
だけど、あの男の人が開いた“
それでもこれほどまでひどくやられてしまった。
もし少しでも逃げに徹するのが遅れていれば間違いなく私達は今頃スラムのとおりにころがされていることだろう。
「今水を…水を出しますから…飲んでください…」
彼は苦しそうに目を閉じ、穿たれた傷口を押さえながら悶ている。
地面の上にそのまま寝かせるのもはばかられたため、一応私の服を地面に敷いているが、寝心地は決して良くないだろう。
それにこの発汗量、体内の水分が大きく失われていることは明白なのでもともと雀の涙程度しかない私の魔力を水に変換し、彼の口に流し込む。
「―――お願い、神様……どうかこの人を助けて…」
いくらか彼の眉間のシワが取れたかと思うと、彼は上半身を持ち上げながら私の頭をなでてきた。
「―――神になんて頼るな。自分の手で未来を掴むことを諦めちゃダメだ」
ニカっと笑みを浮かべた途端、傷口にさわったんだろうか、彼はそのまま体を横たえてしまった。
「借り物の言葉だけどな、この言葉のおかげで俺は今まで生きてこられた。強くなることが出来たんだ」
「はい……」
頭をなでてくれた手を掴み、両手で包み込む。
―――とてもあたたかい。
そして、優しげな手。
まるで彼の生き様そのものを示しているかのような。
「―――英雄の体は丈夫だ……こんな怪我少しすれば塞がるから心配しなくていい」
「わかりました……でもシーバスさんは一刻も早く体を回復させてください。この状況で私が祈る相手は神様ではなく、シーバスさんになるんですから」
わざと冗談めかして言えば、彼は少し驚いたような顔を私に見せた。
「あ、あぁ。安心しろ、入ってくるときに罠は仕掛けてるし、最悪奥の手も用意してある」
彼はそう言うと、今度こそしっかりと起き上がり、アイテムボックスからいくつかの食事を取り出してくれた。
「まぁ、腹が減ってちゃ戦うことは出来ねえし、体も治りにくい。ひとまず飯にするか」
「あ、は、はい、ありがとうございます……」
(あれ、もしかして私があんな必死に魔法を使って水を出す意味なかった?)
その考えを読み取ったのか、彼は少し恥ずかしそうに頭をかきながら、こちらには視線を送ることなく小さくつぶやいた。
「そ、それと、水、ありがとな。うまかった」
「い、いえっ……その、私は別に……」
急激に熱を帯び始めた私の頬。
今の顔を見られるのは死ぬ頬度恥ずかしいと心が叫びだし、自然と私はうつむいてしまった。
その後、シーバスさんとこれからのことについて話し合った。
一応彼のアイテムボックスは最高級の品であり、中に貯蔵されている食材は二人でも3週間ほどは食つなぐことができる程の量だとか。
それだけではなく、生活に必要なものは一通りアイテムボックスに収納されており、あとから出してくれたブランケットをかけられるまで私自身が下着姿だということさえ忘れてしまっていた。
少しずつでも外の情報を得るために彼が折りを見て外に出始めたのは、私達がここに潜伏してから3日目のことだ。
外ではシーバスさんに懸賞金がかけられており、何でもクーデターの重要参考人を誘拐したとのお触れが出回っているそうだった。
本人が気まずそうに教えてくれたということがどこかおかしくてつい笑ってしまったら、シーバスさんが拗ねてしまったのは印象に残っている。
そこから更に2日、私達は特に何もなく英気を養うことが出来た。
シーバスさんの体を回復し、万全ではないが問題がない程度のコンディションを取り戻した。
しかし、それを見計らったかのように、私達の隠れ家に侵入者が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます