第333話 探してる時こそ何故か見つからない


 アホなのかはわからない。

 まあ多分アホだけど。


 私はその心当たりを二人に伝えると、その二人はどこか嬉しそうに、しかしそれ以上に険しい表情を作った。


「……情報提供に感謝いたしますわ」


「もしここに再びあの人が訪れた際にはどうか私達が探していることをお伝えいただけると嬉しいです」


 壮年の男性冒険者がそう言いながら頭を下げてくる。

 それに続いて少女の冒険者も同じように頭を下げてきた。


 おそらくあの少女は貴族様だと思う。

 そんな彼女が頭を下げる必要がある人物など、私の頭の中で想像した人物とどうにも一致しない。 


「わかりましたが、私の心当たりが正しいということはあまりないかと……」


 自信なさげにそう言ってみると、彼女は一瞬驚いたような、どこかほうけたような顔の後に、私でも見惚れてしまうほどの美しい笑みを浮かべた。


「そうですわね、たしかに普通に考えたらそうでしょう。ですが、今の発言でわたくし確信しましたの。あなたの教えてくださった人が、私達の探し人で間違いないと」


 鼻先に人差し指を当てながら、スッキリした表情でそういった少女。

 

「それでは私達はこのあたりで失礼させていただきますわ。先刻申し上げた宿で部屋をとっておりますので彼がいらっしゃればすぐ来るように伝えておいてくださいまし」


 そう言うと彼女たちはギルドから出ていってしまった。

 貴族に探されているなんて……それにあの様子だとなかなかに切羽つまっているようにも感じてしまった。


 一体何をやらかしたんだろう。


 そんなことを思いながら私は身支度を整え、ギルドをあとにした。


 帰り道は驚くほど人が少なかった。

 どういうわけかいつも喧騒が絶えない飲み屋通りでさえ今日はやけに静かだった。


 あの二人が出ていった後すぐに出てきたつもりだったけど、多少時間も空いてしまったのは事実。 

 願わくば、こんな気持ちの悪い日は信頼できて、腕の立つ人に送ってもらえたらとてもありがたいんだけど……


 そんなことを思っていると、最近ランバージャック支部で頭角を現し始めたNo1ルーキーである冒険者が私の前に現れた。


「嬢ちゃん、こんなところを歩いてるとあぶねえぜ?」


 黒いロングコートのポケットに手を突っ込みながらそう言ってくる冒険者の方。

 この人の受付を何度か担当したことがあるけど、まだ担当受付を決めていないことでも有名だった。


「あ、シーバスさん?」


「覚えててくれて嬉しいぜ」


 そう言って彼は私の近くまで来ると少しだけ周囲をキョロキョロと見回したあと、再び私の顔を覗き込むように見てきた。


「嬢ちゃんは随分と人気者なんだな」


「え、いや、そんなことはないと思いますけど」


「……そうか。まあいいや、それより最近街の様子がまたおかしくなってきやがった。気をつけときな」


 そう言いながら彼は一枚の“札”のようなものを私に渡してきた。


「通信用の陣を組み込んだ札だ。今日みたいになんか気持ちがわりいと思ったとき、助けがほしい時、いつでも飛んでいくからよ」


 そう言い、彼は後ろ手を振りながら去っていってしまった。


「……ありがとうございます」


 結局その日は何事もなく家に着くことができた。

 しかし、どうにもやはり帰り道の不自然な静けさが気になってくる。


 もやもやを拭えないまま、その日は眠りについた。



 翌朝になって、私はふと、窓から外を眺めた。

 朝起きて、まだ頭が覚醒していないからか、目の前の信じがたい光景を見ても最初、驚くよりもほうけてしまった程だ。


 そう、私の眼下にあったのは……


「きゃははははっ! ほんっと何この頭ダッサ!」


 ペシペシと、黒い被り物をしたあの男性の頭を楽しそうに叩く……“歌姫”の姿があったのだ。


 あまりにも私の知っている歌姫とギャップが有り、最初は認識できなかった。

 だけど、目を凝らしてみればサングラスをかけていようと、帽子をかぶっていてもすぐに分かる。

 

 無意識のうちに視線を集めてしまうほどの美貌と、もはや人体と呼ぶより芸術作品の域に達しているプロポーションを持つ彼女が、ファーストシングルから現在最新の楽曲まで全て聞く用、保存用、布教用、観賞用と集めまくってきたの“歌姫、ハーシュ・リザーブ”が目と鼻の先にいるのだ。

 何ならライブで使った銀テープもファンサで投げたボールも命がけで勝ち取って、高名な魔術師に劣化抑制の魔術を使ってもらい保管してあるほどだ。


「は、ハッハッ……ハーシュたん……」


 あまりの驚きと興奮に呂律が仕事を放棄し、見たこともない無邪気な笑みを浮かべながら隣の彼をペシペシとしているハーシュたんを網膜に焼き付ける。


 しかしながら、その全人類のあこがれとも言えるハーシュたんの首根っこをひっつかむと、まるで子猫のように持ち上げた。


 一瞬ぽけっとした顔を見せた(かわいい)ハーシュたんはその状態からでも男性の被り物をペシペシと叩き始めた(かわいい)


 しかし全人類の憧れであるハーシュたんを掴み上げるなど言語道断。

 私は無意識のうちに男に向かって暴漢撃退用カラーボールを投擲していた。


 それにすかさず反応した男性はハーシュたんをカラーボールの射線から外しながら、ケリを持って迎撃を行った。


 ――――べしゃっと、音がした。


 彼の足に迎撃されたカラーボールはその場で破裂。

 内容物が全て彼の体に襲いかかった。

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