第332話 サプライズって何となく察してわかっちゃうのが世の常
翌日、私は早番で、まだ周囲が薄暗い時間に目を覚ました。
けたたましく起床時間を告げる目覚まし時計を止め、一度大きく伸びをしてからベットをあとにした。
簡単な朝食を作り、コーヒーとともに流し込むと、カバンにギルドの制服を入れ、その他の必要なものを補充してから家を出ました。
夜勤の人たちが今頃暇そうにしているだろうなと思いつつ、ギルドに足を向ければ……
「少しだけ、騒がしい?」
平時に比べれば些か劣るものの、昨日までの閑古鳥が鳴き出しそうな静けさはなく、少しだけいつものギルドに近い喧騒があった。
少し早足で中に入れば、ギルドのシフト調整が毎日あっていないゆえに従業員は大忙しの様子で、あちこち駆け回っていました。
中でも最も大変そうだったのが受付嬢で、現在査定員がいないため素材の持ち込みに来た冒険者を待たせてしまい、中には文句を言っている人まで現れる始末。
ギルドの入り口でその光景に唖然としていると、受付嬢の一人が私を見つけたのか、今にも泣き出しそうな顔で駆け寄ってきた。
「お願い! すぐに着替えて査定をしてほしいの! たしかあなた前の支部で査定員もやってたって言ってたじゃない!?」
「え、えぇ、まあ……」
正直に言えばやりたくはない。
ここにはここの査定基準がある。
なんとなく記憶はしているものの、その基準を私がブラしてしまうのは後々面倒になりそうだし。
「お願い! 支部長には私の方から言っておくから! ね? 私達を助けると思って……」
そこまで言われて、ここで断ってもいいことがなさそうだなぁ。
なんて思いながらも、仕方ないと内心で割り切ることにした。
しかし、割り切ってしまうとどうだ。
王都の冒険者は高ランクと低ランクの二極化が激しい場所として有名だ。
彼らがどんな素材を持ってくるのか気になってきてしまう。
「……わかりました。奥の解体場に臨時で素材買取ブースを設けてもらえればその場で私が査定します」
解体ブースは素材というよりも魔物の死体をそのまま持ち込んで来る人向けの場所だ。
解体技術がないパーティーや、解体が難しい個体などをそのまま持ち込むケースは少なくない。
それに、個体を持ち込めば安い解体料で正確に解体を行ってくれる。
下手に解体をしくじって素材の値段を落とすリスクも減るのでギルドとしても必要不可欠な場所である。
この調子だと解体もできそうな人がいないし、今日一日私はここから動けそうにないかな。
「ほんと!? ありがとぅ!! やっぱりなあたがこっちの支部に移ってくれて本当に良かったわ!」
「いえ、そんな……」
私は二ヶ月ほど前、このランバージャック支部に異動になった。
もともといたギルドはあまり素行の良くない人が多く、私はギルドでの仕事を一手に引き受けていた……いや、やらされていた。
周囲に助けてくれる人はおらず、吐き出す場所もなかった私の、唯一の友人は顔も名前も知らない占い師の女性だった。
彼女は私の顔を見るやいなや、私が置かれている状況をすぐに読み解き、助言をくれた。
それから何度か道端で顔を合わして軽い世間話なんかをするようになり、仕事終わりに彼女が店を出していればよってみたりもするくらいの仲になった。
私の目的が占いではなく、なんとなく気の合う彼女とただ話をしたいだけというのもおそらくバレていたともうけど、それでも彼女との時間は楽しかった。
異動になってからは一度もあっていない。
最近ようやく余裕も出てきて、会いに行ったりもしたのだが、彼女の姿はどこにもなかった。
数年間あの街で活動していたようだけど、ついに違う街に行ってしまったのだろうか。
そんなことを考えていれば、いつの間にか目の前に置かれていた査定書の項目が埋まっていた。
考え事をしながらだったから少し不安だが、一通りダブルチェックをしてみて特に問題ないことを確認してから冒険者の方にその査定書を渡した。
そんな感じで忙しくも懐かしい業務に勤しんでいれば、あと少しで退勤という時間になっていた。
手を洗ったり、急遽出勤になった査定員の人に引き継ぎなどもあるからそろそろ切り上げようかと思った時、その人は現れた。
「―――やはりあなたですわ」
そういったのは、先日壮年の男性と二人でギルドを訪れた少女。
私に対し、何かを疑うような視線を向けながら話しかけてきた。
「もし、あなたこのあと時間はありまして?」
一応は伺い建ててくれる彼女の優しさを感じながら彼女に目を合わせる。
「退勤後でしたら時間はありますが、どのような御用でしょうか」
「―――人を探しておりますの。アホな顔の、アホな男ですわ」
「あぁ、心当たりがあります」
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