第326話
「最低! 女の子を空にぶっ飛ばして放置とか何考えてんのよ!」
「いいじゃん今流行ってんじゃん放置少女」
「何よそれ」
「おっとこっちの話」
回収したハーシュは相変わらずうるさいし偉そうだが、まあこれだけかわいい女の子をお姫様抱っこする対価だと思えばまあ、なくはない。
「というかあの化け物をどうやって倒したのよ」
「倒してはいないなー。撃ち落としただけだ」
「でもあの化け物だったらすぐに立て直して襲いかかってきそうだけど」
「運が良かったのかもね」
適当に話を終わらせたが、実際運に任せたなんてことはない。
まず閃光灯で視界を潰し、プレゼントで三半規管をぶち壊してやった。
俺がくくりつけたプレゼントはもちろん爆音弾だ。
強烈な音の暴力で鼓膜及び三半規管の破壊をするための道具であり、それを新婚夫婦レベルの距離感で爆破してやった。
そうすりゃ空中で目も開けられねえし、上下左右なんかぐちゃぐちゃになる。
追いかけてくるにしてもあの勢いで地面にノーガードで叩きつけられれば流石に相当なダメージになる。
しばらく追いかけて来られないことは間違いないだろう。
「あんた意外とすごい人なの?」
「いや、化け物に追いかけられるのに慣れてるんだよ。悲しいことに」
座標の指定を行っていない結界に腰掛け、座標指定した結界に打ち込んだパイルを巻取ることで移動している。
しかしまあこの移動方法は目立って仕方がない。
これだけ街道から大きく外れた場所でもない限りは絶対にできないだろう。
それに、今から王都への街道に戻ろうとすれば余計に時間がかかってしまう。
なのでここはもう一つの目的と一緒に片付けてしまおうと言うわけだ。
「これどこ向かってんの? 王都はあっちよ?」
そう言って俺たちの進行方向とは異なる方角を指差したハーシュ。
「こっちに俺の目的があるし、お前の目的も簡単にこなすことができるアイテムがあるんだよ」
これから俺たちが向かう場所は王の墓所。
その名の通り歴代の王族が眠る場所であり、俺は遅かれ早かれそこに行かなくてはならないと思っていた。
バシャヒクノシュキーに追いかけ回されたのは不幸だが、その結果墓所の方角に来られたのは僥倖だった。
未だに納得していないハーシュがぎゃーぎゃー騒いでいるが、まあ理由を説明してないからしょうがない。
「これから向かうのは歴代の王族が寝る場所だ。そしてそこには俺と仲間達が旧友の為に作った“転移陣”がある」
もともとはミハエルが激務のせいで墓参りもできないと年がら年中愚痴をこぼしていたため、俺達が王の墓所に転移陣を設置してやったのだ。
ぶっちゃけ転移陣一つで半年分くらいの国家予算を上回る金が動くもんだが、そこは友達ということで分割払いにしておいたのだ。
俺ちゃんやさしーね。
陣の構成はキャロンが行い、魔力の供給はキルキスが行ったものだ。俺はその現場監督を行っただけである。
ボロい商売だった。
ふたりとも金に興味がないし。
「転移陣ッ!? 転移ってあの遠く離れた場所に移動できるロストテクノロジーでしょ!? なんであんたが……」
「長いこと冒険者してるといろんなツテが出来るってことさ」
ほんと、冒険者のツテは馬鹿にできない。
闇商人や貴族なんかはもちろんとして、協会の人間とも裏でつながっていることは珍しくない。
そして、俺の数少ない自慢の一つに、この人脈がある。
統制協会のバカどもや、ギルドのバカども、帝国上層部のバカども、裏社会のバカども、教会のバカども、王国のバカども、憲兵団のバカども、傭兵のバカども、学校のバカどもなど多種多様なバカどもがいる。
どのバカも皆一級品の馬鹿者だけど、能力は高い。
故に、俺は一つの国くらい簡単に滅ぼせるのだ!
協力者に国を滅ぼす以上の対価を払えればの話だが……
と内心で自己肯定感を上げつつ、隣で寝転がるハーシュに視線を向ける。
この子は戦闘能力があるわけでも、政治のスキルが有るわけでも、ましてやそもそも特殊な能力があるかも怪しい。
それなのに、自身の役割を自身でしっかりと定め、それをブレることなく突き進もうとしている。
俺はこういう馬鹿なやつが意外と好きだ。
ついつい昔の自分を、勇者に憧れ、自分も勇者として歴史に名前を残すんだと意気込んでいた頃の自分を思い出させる。
まあ俺の場合は運動もしたこと無い小学生が、将来メジャーリーガーになりたいと言っているのと変わらないくらいあっさりと折れたんだが。
まあその過程で努力したのも事実だし、美化する気はない。
俺にはできなかったことだ。
だからこそ、挫折したときのキツさがわかる。
届かないと悟ってしまった時、今までの行為すべてを否定してしまいたくなるのもわかる。
だからこそ、俺から見ればまだまだ子供なハーシュが、少しでも夢を追い続けられるように協力したくなってしまう。
こういうところで、本当に歳をとったと感じる反面、最近は肉体に引っ張られているのか、少し思考が若かった頃に戻りつつあるとも感じた。
それがいいことなのか悪いことなのかは別として。
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