第324話
「やばいやばいやばい! 追いつかれる!!!」
「あんたが囮になりなさい! その間にアタシが逃げるから!」
「死ぬわ! トイレットペーパー以下の儚さで全身ズタボロにされるわ!」
「じゃあどうするのよ!」
「……やっぱ女同士じゃないとわからない話とかあるじゃん? ちょっと言ってガールズトークしてこいよ。その間に俺が助けを呼びに王都に行くからさ!」
「嫌よ! というかあんた護衛対象を見捨てようとしてんじゃないわよ! 男なら少しくらいかっこいいところ見せないさいよ!!」
「ヴァーカ! この俺にそんな甲斐性があると思うなよ!」
「なんで自慢げなの―――ひゃっ!」
流石にスタミナが持たないのか、いつの間にか俺に並ばれたハーシュ。
そのハーシュが勢いよく頭を下げた。
その瞬間、背後から俺が罠用に設置した支柱が飛んできた。
「このばか! あんたのせいで死ぬところだったじゃない!」
「どちらにしろこのままじゃ死ぬだろうが!!」
「じゃ、じゃあじゃんけんしましょ! こうなったら負けたほうが足止めよ!」
「おっしゃ任せろ」
「せーの」
「「じゃんけんポン!」」
ちくしょぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!
なんで俺はパーなんか出しちまったんだよ!!!
隣を見るとドヤ顔でチョキを見せつけるハーシュの姿があった。
「さあ逝きなさい。大丈夫、あなたが死んでも私の心の中で生き続けるから」
「ばっかやろう俺が心のなかだけで満足できるほどの男に見えるのかよ!」
「正直お猪口の裏側のくぼみくらいで十分だと思ってるわ」
「ちくしょぉぉおおお!」
ハーシュに心を折られ、俺は涙を流しながらバシャヒクノシュキーの前に立ちふさがった。
「行くぜこの馬野郎! 食らえ必殺……あ、私こういうものでして――――ぐひゃぁぁぁ!!!」
馬野郎が全力で振り切ってきた拳を間一髪マトリックス避けで回避に成功したが、俺の差し出した名刺はその威力でチリにされてしまった。
これが人体に当たれば死ぬ。俺じゃなくても多分死ぬ。
そのまま旋回してこちらにギラついた視線を向けてきたバシャヒクノシュキーを見てかすかにチビリながら俺は脱出ように用意してた弾性のある糸につながる糸を断ち切った。
その瞬間、こちらに向かって走り出そうとしたバシャヒクノシュキー横を高速で通過し、俺の首にひどいむち打ち症状を残しながらも窮地を脱することができた。
「はァァァァァァアシュたァァァァああ―――」
「げふっ!?」
「あふん」
そのまま勢い余って俺のことを置き去りにした糞女の背中に頭から突っ込んで二人して盛大に転んでしまった。
「ちょっ! あんた何してくれてんのよ!」
「ムリムリムリムリ!! はいバトンタッチ! 次は君の番だ!」
「ち、仕方がないわね! このアタシの知略であんな馬イチコロよ!」
「任せたぜハーシュたん!」
ころんだ俺達を見据えながら、ゆっくりこちらに歩みよるバシャヒクノシュキーに向け、ハーシュたんが堂々と歩いていく。
その姿はまるで英雄の凱旋。
巨悪を討滅し、世界に平和をもたらせた強者のような足取りだった。
「行くわよっ!」
低く腰を落とし、低い姿勢のままバシャヒクノシュキーに向かって突っ込んでいく。
これは、まさか!!!
低い姿勢からバシャヒクノシュキーの側面に回り込み、そして―――
「ちょっとシュッキー! あんた最近1組のヨシィダのこと気にしてるってほんとー?」
バシャヒクノシュキーを軽くお尻で押すようにしながら話しかけた。
あ、あいつやりやがった……さ、流石だぜ姉御…おらぁ一生あんたのこと忘れねえ…あんたほど尊敬できる人間をおらぁみたことねえぜ…
「シュッキーそんな照れないでいいからおしえてよっ! ヨシィダも満更でもないと――――」
そう言ってバシャヒクノシュキーのほっぺを突こうとしたら……
「――フンっ!」
「ふぎゃあぁぁぁぁあああ!!!」
あと少しバックステップが遅れていたら今頃ハーシュたんはバサシーヌ3号になっていたところだろう。
全力の涙目でこちらに全力疾走してきやがったハーシュに最高のハンサムフェイスで「おめえはすげえよ、よくがんばった……たったひとりで……こんどは、いいやつに生まれ変われよ……。一対一で勝負してえ……。待ってるからな……。オラも、もっともっとウデをあげて……。またな!」といって全力で見捨てて逃げ出した。
「ふざけんなぁぁぁぁ! 逃げるなら一緒に連れてけぇぇぇぇ!!」
「馬鹿なんじゃねえの!? なんで魔物相手にガールズトークしてんだよ! ってかヨシィダって誰だよ!」
「今そんなことどうでもいいでしょ!! それより次あんたの番よ! 早く逝きなさいよ!!!」
「チクショこうなったら最後の手段だ!」
「てめえ都合よく最後の手段とか言ってんじゃねえよ! そんなのあるならアタシが馬鹿みたいなことしなくて済んだんじゃねえか!」
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