第319話
連中の追尾を振り切ってようやく本題に取り掛かり始めたわけだが、どうにもギルドがおかしい。
かつて戦争は何回も経験しているが、その時は必ず採取系の依頼がギルドに大量に寄せられていた。
だが、今回はそれがかなり少ないのだ。
これは異常なことで、戦時中は基本的にギルドは戦争に介入しない。だからこそ回復薬の原材料や強力な魔法触媒なんかの採取依頼が後を絶たないはずだが、国内で起こっている問題だというにも関わらず、この有様はどうにも異常だ。
「ちょっといいかい」
受付嬢に声をかけると、どこかの受付嬢と違い素直に答えて食える。
「はい、何でしょうか」
「今ってさ、王都で“暴動”が起こってるんだろ? 採取依頼が沢山あると思って来たんだけど」
俺の言葉を聞いた受付嬢は少し難しい顔をした後に、再び営業スマイルを張り付けて答えてくれた。
「そうですね。今回はなんでも、ギルドの名前を勝手に持ち出されたという話があり、今回の“内乱”に関する依頼は全て統括が断っているそうですね」
「へぇ~そうだったのか。それにしても……そこまで話しちゃっていいの?」
「はい。ギルドにも多数の問い合わせがあったそうで、こちらとしても不本意に名前を使われているわけですから公開することにしたみたいですよ」
「そうだったんだ。色々ありがとね」
そう言ってカウンターにいくらかのチップを置いて離れる。
どういうことだ?
今回の冒険者連合は勝手に名前を使っている?
だとしたらどうしてだ。それをやることのメリットが見えてこない。
今回のクーデターは分からないことが多すぎる。
それに、この町だってそうだ。
隣で内乱が起こってるってのに穏やかすぎる。
どこもかしこも、まるでよその国の戦争みたいな扱いじゃねえか。
そんな事を考えながら、今現状唯一の手掛かりになりそうな情報を頭の中で整理する。
あの騎士の着けていた甲冑。確か肩にエンブレムがあったな。
俺の情報処理はこういう時に非常に便利である。
記憶の中の映像を再現し、それを拡大したりもできる。
記憶の中にあった騎士の甲冑には盾のようなマークに、槍が三本掲げられているエンブレムだった。
思い出したのと、動き出すのは恐らく同じくらいの速さだったと思う。
すぐにギルドにとんぼ返りをして、そのエンブレムがどこの所属か聞いてみたが、どうにもこの辺りにそのようなエンブレムを持つ貴族はいないそうだ。
思いの外早くからぶっちまった……
勢い勇んで駆け出してみたのはいいが、さっそく振り出しに戻ってしまい、結局足で情報を稼ぐほかなくなってしまった。
いつものように個性で認識障害を発動しながら出店の連中に声をかけていく。
「このエンブレムって見おぼえあるかい?」
つたない手書きだが、ないよりはましだろうと思い作ってみたが、これが思いの外いい効果を発揮してくれた。
聞き込みを初めて二時間ほどでそのエンブレムの出所が判明したのだ。
「あぁ、確か歌姫様の護衛の騎士たちがそんなようなの付けてたっけなぁ」
「おお、そりゃよかった! これでようやく恩返しができるぜ」
「はっはっは! 暴漢に襲われたんだっけか? 助けてくれた騎士様にゃしっかり礼言うんだぞ」
「へいへいわかってるよ。 そのためにこんなに走り回ったんだしね。それじゃありがとう。また機会があれば寄るよ」
「おう!そうしてくれや!」
ちょっとしたやり取りを終え、そのまま歩き出す。
歌姫ねぇ……ハーシュたんの周りも穏やかじゃ無いみたいだな。
顎に手をやり、思考を加速させる。
王都の一件。所属の無い騎士。歌姫の電撃ライブ。
はてさて、コイツらがどうにも無関係には思えんのよな。
こういう時の“いやな予感”は良く当たる。それどころか、予想した最悪のケースを容易に飛び越えていくことがままあるからたちが悪い。
ついでとばかりに他の出店の連中には次のハーシュのライブの予定時間と場所を聞き出すことに成功した。
今日のライブの後に歓楽都市セーラムに向かうとのこと。
どうやらチャンスは今日しか残されてないらしい。
最悪俺の王都入りはもう少し時間を空けてからでもよかったのだが、こちらに対してもどうにも嫌な予感がして仕方がない。
長生きする秘訣はこの勘って奴を大事にして、それにしっかり以上に備えることだ。
まだ幸いにも時間は昼過ぎ。
ハーシュのライブが夕方から始まるらしいのでそれまでに武器屋やら道具屋をめぐって道具を調達することを決め、足を進める。
まずは武器屋。ココで暗器に使われる針やら、魔石を購入する。
針には言わずともがな陣術を転写し、魔石には魔力を限界まで封じ込めておく。
これらの作業はそこまで時間がかからなかった。しかし問題は次だ。
俺の生命線でもある閃光灯と爆音弾の二つを作るための材料は以外にも高価な物が多い。
上手く手持ちの者と合わせながら、周囲の店をしらみつぶしに回っていく。
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