第300話

 瞬間移動さながらの速度でその場から移動を開始した二人は即座に凜の近くに現れると次の行動を開始した。


「二人とも遅いぞ」


「申し訳ない」


 空中に打ち上げられたモンテロッサが最高地点に到達するより早く、タケツルの繰り出す斬撃がモンテロッサの体を襲った。


「二人とも離れるぜ?」


 打ち上げられたモンテロッサもそのまま無抵抗などという事はなく、落下が始まると同時に地面に向け拳の雨を降らせた。


「シフト」


 拳の雨が地面を襲う直前、ノブの個性が発動し、その場に残っていた二人の見ている景色が一変した。


「なんだあれ、やっべえぞ?」


 そう言ったノブの頬には冷や汗が垂れており、その視線の先には先ほどモンテロッサが放ったであろう拳の雨によって生み出された被害が広がっていた。


 膝を折っていた勇者たちはそのほとんどが命を散らし、今の攻撃を何とか退けた連中も負傷している者が多い。

 

 何か特別な攻撃や、特殊な技であればそれも納得できるのだが、しかし今目の前の神が行ったのはただ拳を地面にたたきつけるだけというもの。

 それだけで勇者の大半が死に絶え、英雄も少なからず戦線離脱を余儀なくされた。


「残った連中は……まあそうなるわな……」


 この場に残った者たちは皆、一騎当千の猛者ばかり。むしろそう言った者達でしか残ることを許されなかったといってもいい。

 いわば今の一撃は神の試練のような物。


「アタシらクラスのやつはあのおっさん一人か。他はエース級、キング級ってところか」


「総力戦は最初から想定していた。何も驚くことはござらんよ」


「私達の仕事はあいつを殺す。ただそれだけ」


 そう言った凜が再びモンテロッサに肉薄し、迎撃のために振り下ろされた剣をひらりと回避しながらふところに潜り込む。

 それを見たノブとタケツルの2人も意を決した表情を作りながら、モンテロッサの懐めがけて飛び込んでいく。


 その時丁度同じタイミングで行動を開始したバーボンと合流を果たし、アイコンタクトだけで各々がどこに向かうかを判断した歴戦の猛者たち。


 凜は懐に、ノブは顔面、バーボンは足、そしてタケツルは背後に回って攻撃を一斉に仕掛ける。


「2本の腕でこれを凌げるか!」


 バーボンの叫びが響くと同時に、モンテロッサの背中にタケツルの最大最強の一撃が降りかかり、凜は召喚した12本の聖剣を使い縦横無尽に攻撃を加え、バーボンのタケツルの一撃を凌ぐ威力の攻撃が右前足を襲い、態勢を崩したモンテロッサの顔面にノブの拳が突き刺さった。


 この戦いで初めてになるモンテロッサのダウン。

 ダウンといってもバランスを崩し、手を突いた程度の物だが、その姿は他の英雄を突き動かすのには十分だった。


「俺たちも行くぞ!」

「統制協会に後れを取るな!」

「ここはシュテルクスト! 最強の集う国だ!」

「俺たちの底力を見せてやれ!」 


「私達もジョーカー様達に続くわよ!」

「序列持ちがこれだけ来てんだ! 負けるはずがねえ!」

「一気に畳みかけろ!」



 そうして総攻撃が始まったが、それと同時に一定以上の力を持つ4名、その中でもことさら強力な凜とバーボンにはそれがまるで既に起こった未来かのように感じとれてしまった。

 明確な死の気配。今まで体験したものなど比べるまでもない程強大で強力なそれに突き動かされ、二人は周囲にいた数名を抱え、不可解な痙攣を起こしたモンテロッサから大きく距離を取った。


 数瞬遅れてタケツルとノブも動き出したが、身体能力では4名の中で最も低いノブだけが自身に降りかかるであろう現実を理解してしまったのだ。


 ノブの個性が発動すると同時に、モンテロッサを包囲していた200名の英雄は『バチッ』という音と共に肉片と化した。


「な、なんなんだ今の動き……こんなことが有り得て良いというのか!!」

 

 激昂するバーボンと、現状を冷静に分析する凜。その横に真っ青な顔をしたタケツルが現れた。


「タケツル、ノブは死んだの?」


「………間に合わなんだ……まさかあの神がこれほどの隠し玉を持っていようとは……」


 モンテロッサの全身から迸る稲妻。それが次第に収まるにつれ、モンテロッサが起こした被害の大きさがあらわになる。


 周囲は赤黒い霧に包まれていた。正確に言えば、消し飛ぶほどの威力で粉砕され血肉によって。

 その中央で佇むモンテロッサの姿が、先程よりも強力で、なおかつ凶悪な物にすげ変わっていた。


 上半身は人間と大差のないものだったが、その背中に腕が2本浮いていた。

 その浮いている手は巨大な戦槌と、槍を持っており、今までの姿よりも圧倒的な力と、先程の戦い方であろうと今後は通用しないことを戦士たちに知らしめていた。

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