第299話

 布陣を改め、英雄や勇者が前線に出る形になった戦場。

 戦いの激しさは毎秒事に激しさを増していく。


 個性を奪われた人間たちが連携と、生まれながらの身体能力を駆使してモンテロッサを翻弄しようとするも、全長20メートルを超える大きさながら、考えられないような速度で行動を起こすモンテロッサの前に次々と英雄たちは命を散らしてしまった。


 ある者は攻撃の際にまるで槍のような鋭さを持つ足の一本に体を貫かれ。

 ある者は強力無比な大剣を一身に受け粉砕され。

 またある者は盾によって押しつぶされた。

 

 どれだけ高位の英雄だろうと、一撃確殺は変わらず、モンテロッサの繰り出す全ての攻撃は必殺の力を秘め、それでいながら有り得ないほどの回転率を誇っていた。

 剣と盾、一般的な装備であるにも関わらず、小柄でスピードを生かせるはずの人間が全く歯が立たない。

 小回りが利く分懐に潜りやすいのに、その懐が果てしないく遠い。

 

 安易に近づけば剣によって両断され、剣を奇跡的に掻い潜れたとしても巨大な盾に攻撃を阻まれる。そればかりか、その巨大な質量を利用し、押しつぶすような攻撃を繰り出してくる。

 

 一般的な人間がジェット機にでも跳ねられたかのような吹っ飛び方に、この世界に召喚されて間もない勇者たちは顔を青ざめさせていた。


 これほどの巨体を持つ相手に、未だに有効打となりうるような攻撃が当てられない。それだけでも戦士たちの心境は最悪を予想し、徐々に士気が下がっていく。


 それどころか、ついにはシュテルクストの最大戦力といってもいい勇者たちが全く使い物にならなくなってしまったのだ。

 彼ら、彼女らは本来戦いの無い世界で生まれ、育ってきた。如何に才能に恵まれようと、如何に世界に愛されようとも、これほどまでの絶望の前に、気丈に振舞うことはできなかったのだ。

 

 強大な戦闘能力を持ちながらも、ここで勇者特有の弱さが現れた。


「こんな怪物にどうやって……」


「ゆうくんっ!! ねえゆうくんってば!!! 返事して! お願い!! ……私を……一人にしないで……」


「お、終わりだ……こんなことなら、勇者になんかなるんじゃなかった……」


 膝を折り、全てを諦めたように頭を抱えるもの。

 下半身を失い、とっくの昔に生命活動を終えた友人を抱きかかえるもの。

 壊れたような笑みを浮かべながら、空を仰ぎ見るもの。


 様々な絶望がその場を埋め尽くし、様々な死がこの空間を支配していた。


 だが、そんな中に、勇者たちと比較しても圧倒的な、“最高の英雄”と称されるバーボンにさえも遅れをとらない程の強力な力を内包した存在が三人、その場に現れた。


 一人は侍のような佇まいの男。

 一人はぼろぼろのジーンズに、革ジャンとサングラスをかけた女。

 最後の一人は白いロングコートに、黒いガントレットをはめたショートカットの女。


「統制協会序列6位。ジョーカーのタケツルと申す」

「同じく、統制協会序列4位、ノブ・クリークだ」

「序列2位、凜。推して参る」


 最後に名乗りを上げた凜はそのままモンテロッサの懐に潜り込み、さっそく一撃を加えた。


 硬いガントレットに守られた拳は武器にも防具にもなりえる。そしてそれを彼女の全力でぶつければ……


「いやはやさすが序列2位殿でござる。あの戦の神を殴り飛ばすとは」


「ははッ! アタイらも負けちゃいらんねえな! 行くぞタケ!」


「心得た」


 感心したように顎をさするタケツルと、心底面白い物を見たような笑みを受かベるノブ。

 二人の行動は対照的だが、しかしその内面は非常に似通ったものだった。


(たたみかけねば凜殿がやられる)

(あのままじゃ凜の野郎ぶっ殺されるな)

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