第295話
「あの大立ち回りは自己防衛だったと……」
「だから何度もそう言ってるじゃねえっすか先輩! 俺なんも悪くねえんすよ! 何もやってねえんすよ!」
「いや、私は君の先輩じゃないんだが……」
「それなのにっすよ? 個々の連中話も聞かず俺のこと犯罪者とか言ってぶんなぐってくるし、ぼこぼこにしてきやがって、ほんとどうなっちまってんですかね!」
「え、い、いやそは最初に事情聴取に行った騎士に金的してたこ殴りにしてたからじゃ……」
「むしろ俺のおかげで今回の最悪を免れたってのに、ほんとに恩知らずな連中っすね! 先輩もそう思いません!? あ、あとたばことか持ってます? ちょっと吸いたくなっちまって、へへ」
「と言うかキャラ変わりすぎじゃないか? さっきまでそんな感じじゃなかったよな? 疑い晴れた途端急に強気になるし……」
「んなこと良いじゃねえっすか! それよりヤニ下さいよぉ~」
完全にそこらへんに居るチンピラに成り下がった大塚悠里でございます。
ここまでの話しで、俺が関係ないことが証明され、挙句騎士団から慰謝料と報奨金が舞い込むことになった。
これはこれで儲けものだと思い、可能な限りむしり取ってやろうという魂胆である。
「水を得た魚とはまさしく今の君のことだな……さ、錠も外したし、この書状を上の者に見せれば詰め所でお金を貰えるはずだ。今回は事が事だけにかなりの金額になるから楽しみにして良いと思うぞ」
そんな事を言いながらさわやかな笑みを浮かべた騎士団長さん。
この人はかなりいい人の様だし、それに強い。
だからこそ、俺は最後にどうしても気になることを彼に投げかけた。
「ところでさ、ここにモンテロッサが封印されてるってマジ?」
「―――それの口止めも含めた金額が渡されることになってる」
「……儀式は止められたんだよな?」
「あぁ、それはもちろん。今回は本当に助けられた。君と、騎士団にあの場所で動きがあると教えてくれた二人に。これからはより一層騎士団の連携を強め、情報提供ではなく、地力でその問題を解決できるように努めなくてはな」
「そりゃよかった」
それだけ確認できればもうここにいる必要もない。
踵を返す様に部屋を出た俺に、今度はバーボンの方が声をかけてきた。
「ここは素晴らしい国だ。兵は世界でも最強。国民はその絶対的な安心の上で充実した生活をしている。この平和を壊そうとするものが居れば、私はきっとそのものを許さないだろう」
そんなフラグじみたことを言ってきたが、どうにもそれは反応が欲しいお言うより、自分の決意をただ口にしただけのように感じる。
なかなか良い奴じゃないか。
そんな感想を持ちながら、俺は階段を上っていく。
これでそれなりの金が入ることになるが、しかし魔王の情報提供による報酬はかなり減額するだろう。
何せモンテロッサ関係の話しを禁止されちまったわけだし、それにあの騎士団長を裏切る気にはどうしてもなれない。
あれは恐らく―――主人公だ。
一つの物語の主人公。
この世界にはその資格を持つ奴がそれなりにいやがる。
そいつらは圧倒的な力に、圧倒的なカリスマを秘め、ストーリーの根幹にかかわる何か知っている。
今回の物語は恐らく、俺が参加しなければあの騎士団長が言ってた“もう一人の協力者”と共にキルベガンとか言う組織を壊滅させるストーリーだったのではないだろうか。
騎士団詰め所から金をかっさらい、意気揚々と帰路に就く。
しかし、すこしだけ、最後に少しだけ心残りがあり、俺は再び進路を変えた。
「……来るつもりなんてなかったのにな」
『そう言う割に、私に会えてなんだかホッとしているように見えるのだけれど?』
その玉座には、半透明な体で一人の女が座っていた。
玉座に横向きに座り、ひじ掛けに足を乗せ、反対のひじ掛けを枕のようにして、空に手を伸ばす一人の女。
―――最強にして最恐の魔王。
「にしてもアンタ、本当は寂しがり屋とか? 最初俺に話しかけてきた時なんか『貴様にサンが救えるか!』みたいな口調だったじゃん」
『そんなこと言ってないわよ。それとこんなに長い時間おしゃべりで来た人間なんていなかったからかしら。ほらこう見えて私意外とシャイじゃない?』
「はいはいそーっすね。まあ、これであんたも―――」
そこまで言いかけて、俺はその次の言葉を紡げなかった。
とても声を掛けられる雰囲気ではなかったのだ。
夜空に伸ばす手をあまりにも寂しそうに、そして悲しそうに眺める彼女に、ほんの一瞬見とれてしまった。
『はぁ……』
救われたはずなのに、モンテロッサの復活は成らなかったはずなのに、それなのにどうしてこの女はここまで悲しそうに、辛そうにしてやがるんだ。
『―――私も友達とおしゃべりしたり、遊んだり、時々喧嘩したりなんかもして、それでもまた一緒に笑い合える、そんな、普通の生活をしてみたかったものだわ。叶うのなら、次は、次こそは―――』
あまりにも神秘的な魅力を放つ彼女に、未だに視線は囚われ、思考はせき止められている。
『―――普通に生きてみたかったわ』
その瞬間、先程まで俺がいた王宮が吹き飛び、その瓦礫の中から“最悪”が顔をのぞかせた。
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