第292話
早速夜の街に繰り出したのはいいんだが、生憎と店の場所を聞きそびれちまっていたせいか、そこらをふらふらと暫く徘徊し、ようやく“それっぽい裏路地”にたどり着いた。
薄暗いながらも人通りがあり、大通りからも程よく近く、その大通りから直視することができない。
これ以上ない程の好立地であると言えるだろう。などとふざけた考察を行いながら、これから俺に舞い込むであろう大金を想像し、今日入る店のランクを考える。
(あの魔王の秘密となりゃ、ギルドに直接流す分だけでも相当な価値になるが、ルーシアの連中のことや、王宮のおひざ元にあるであろう“アレ”のことをコレクター共にうっぱらえばもっとどでかい儲けになる……そうなりゃ俺の老後は安泰。その記念すべき第一夜な訳だ。ついでに俺の童貞卒業もかかってるとなれば……生半可な店に入るわけにもいかねえよな!)
路地のど真ん中で一人うんうんと頷いていると、呼び込みのような男に声を掛けられた。
「兄さん、もしかして店探してるのかい? それならうちはどうだ? いい子そろってるよ?」
下卑た笑みを浮かべながらこちらに寄ってきた男。身なりはそれなりに綺麗にしているのか、それともそう言う店の趣向なのかは分からないが、それなりに信用できそうな感じはする。
とか言っても俺そう言うところ行ったことないから直感でしかないけど。
「今宵は宴ぞ?」
テンションが天元突破寸前の俺がそう返せば、若干苦笑いを浮かべ、言葉に詰まったような男。
「―――女のランクは?」
かろうじて絞り出したような声。
……こいつは俺を試してるのか?
ここで中途半端なことを言ってなめられたらそれこそオークやゴブリンのような女をあてがわれる。
だが、ここで俺が良い客だと思わせることが出来れば、今後の付き合いも考えてしっかりと案内をしてくれるはずだ。
手に汗握る心理戦。今俺とこの男の中では目に見えない攻防が繰り広げられていると言える。
しかし、勝つのは俺だ!
「―――最強の魔王に引けを取らないいい女を」
俺の発言を聞いた男に稲妻が走る。
ふっふっふ。この勝負、俺の勝ちだ。
「……そう言うことでしたか。こいつは失礼しやした……これ以上は俺の手におえねえんで、向こうの建物の前にスキンヘッドの男がいやす。そいつに“魔王の再来”とお伝えくだせえ」
何かを諦めたようにそう言った男はそそくさと俺の前から姿を消してしまった。
ようするに、俺の要望にあいつの店では答えられないかもしれない。だから新しい店を紹介してくれたってわけか。
今度あいつの店も贔屓にしてやろう……などと思いながら足を進めていけば、話し通りスキンヘッドの男が周囲をうかがうようにしながら立っていた。
「……何のようだ?」
ぶっちゃけかなり怖い。脅されたら手持ちの現金全部置いて行くくらいには怖い。
だけど、俺は負けない。こんなのへっちゃらだもん。童貞卒業の為ならぜんぜんへっちゃらだもん!
なんて内心で現実逃避しながら先ほど教えられた合言葉を男に告げる。
「魔王の再来」
渾身の勇気を振り絞った俺の言葉に、男はニヤリと笑みを浮かべながら背後にある扉を開いて見せた。
「―――いいだろう。ついてこい」
勝ったぁぁぁっぁぁあああ!!!
これはも完全に勝利だろう!
しかし、ここで浮かれたりすると俺が素人だと見抜かれてしまう……こなれた感じに、そう、なんか何回も通ったことある風に装わなければ。
「―――はぁ、全くこの俺相手にこんな手の込んだことをしやがるとは」
「はは、済まねえな。これでもウチは界隈じゃ“超一流”で通ってんだ……そこらのやつに嗅ぎつけられたんじゃたまったもんじゃねえしな」
さすが超一流……そこらへんの貧乏人なんか相手にしてる暇ないってことか……
「それもそうか」
「あぁ、資格ある者だけがこの扉をくぐれるんだ」
「……ふっ。さすがは超一流、俺の期待を裏切ってくれるなよ?」
「あぁ、今回は、今回こそは大丈夫だ。今日が最高の夜になることだろうよ」
自信満々にそんな事を言った男に、すこし俺も驚きを隠せないが、それ以上に、ここまでの自信……これは相当に期待してもいいのだるか?
外見だけならかなりレベルの高い連中が周りにいるが、生憎それと反比例した内面だからプラマイゼロなんだよな……いや圧倒的にマイナスつええわ。
君の内臓を食べたいとか何の映画だよ。
そんな感じでわくわくウキウキしながら階段を下りていくんだが、ここで一つ俺は大事なことを忘れていた。
俺の宿命といってもいい、俺の特性といっても過言ではないその事柄を……
俺こと、大塚悠里は…………世界で一番“不幸”だという事を。
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