第291話
墓荒しがひと段落し、俺が次に目指したのは先ほども見た“彼女”の玉座だった。
かなりの年季が入っているのか、それとも相当な戦闘を繰り広げたからか、その玉座はかなりぼろぼろに見えたが、それでも当時の最強が作り上げた玉座なだけあって今でも健在だ。
俺がぶんなぐっても壊れる気配なんか微塵もないくらいには堅そうだぜ。
「まずは目的を決めねえとな」
墓荒しで歴史を知った。これは今現在俺だけが知る歴史。薬屋もそこまでの考察をする前に逃げ出している。
しかし、これで終わりにするにはあまりにももったいない題材だと思っている。
もっと、知らない何かが、もっと知られていない事実があるのではないか。
それを知るために無遠慮に墓を荒し、当時の戦場に土足で踏み入り、守った物を疑う。これこそがトレジャーハンターだと言わんばかりの業の深さだな。
まあ知らんけど。
とにかく、これだけの未知を知った今、これをこのまま終わらせたくないという欲が出てきた。恐らくこの国にはまだまだ隠されたものがたくさん存在している。その中にはひょっとするとあの最強の魔王の遺品なんかもあるかもしれない。
利益は確定。あとはどれだけ乗せられるかのボーナスステージ。
そんな意気込みで当時の遺物や魔王関係の遺品を見つけることを目標に定めた。
「……そうなると、やっぱ忍び込むしかないよな」
不意に口角が上がってしまった。
間違いなく“あそこ”には何かがある。そう確信めいたものが俺の中には確かに存在していた。
今夜は美味い酒が飲めそうだと思いながら、何となく、その大きすぎる玉座の材質が気になってそれに手を触れた。
『下等なる人の子よ。我が墓前で何を企む』
―――ッ!?
唐突に頭の中に流れ込んできた声。そのこえは若い女の物にも似ており、そして、今までの経験から“そう言う性質”の女であるという事まで一瞬で理解させた。
『我が象徴に触れる人の子よ、その下卑た笑みを収めぬとたちどころに灰燼と化すぞ』
声からは気が伝わってくる。今までに経験したことの無いレベルの圧倒的な覇気を孕むその声に、俺はどうしようもない程におかしくなってしまった。
『―――何を笑う』
「ははっ、手も足も出ねえってのは今のあんたにふさわしい言葉だな」
心の底から笑いがこみあげてくる。
どれだけ強がろうとも、どれだけ虚勢を張ろうとも、目の前の椅子は俺に何か危害を加えることはできない。
そんなこと、“今まで”の経験ですぐに分かった。だからこそ、おかしかったんだ。
「立場を弁えるのはお前の方だ。こんな糞雑魚一人にそんな仰々しい殺気放たねえといけねえってことは、それ以外できねえって自白してるようなもんだぜ?」
この声が聞こえることにもきっと何かの条件があるのだろう。ルーシアの起動術式を扱える者とか、あの墓の最深部を見た奴とかな。
「お前の秘密を丸裸にして、一攫千金させてもらうぜ? 俺の安心安全な老後の糧にしてやらぁ!」
その後も何か言って来る玉座の言葉を無視して俺はその場を後にした。
実に愉快な気分だ。これは間違いなく……何か見られたら困るものがある。確信めいたもの程度の予想が、今確信に変わった。
ギルド酒場についた俺は恥ずかしがり屋の定番、カウンターの一番端の席に腰を下ろし、店員に酒を頼んだ。
注文が来るまでの少しの間、手元に視線を落とし、周囲の声に耳を傾けていれば、そこかしこから仕事終わりの冒険者たちの活気ある話声が聞こえてくる。
やれあのモンスターを討伐しただの、レア度の高い採取依頼をクリアしただの、様々な話が上がっている。
そんな中、少々気になる話しをしている奴がいた。
俺はその話に耳を傾けることにした。
「聞いたかよあの話」
「あぁ、あれだろ?」
「本当だったみたいだぜ?」
「そんなにすげぇのか……」
「あぁ、俺も一回行ってみたが、ありゃかなりのもんだったな」
「そうか……さすが知る人ぞ知る“名店”だな……」
「あそこにはマジもんのサキュバスがいるって噂だ、そのサキュバスが直々に指導してるってんだからそりゃハイレベルなのもうなずけるな」
……どうやら次の店は決まったようだ。
ニヒルな笑みを浮かべつつ、店員が持ってきた酒を一気に煽り、会計を置いてギルド酒場を後にした。
リアルサキュバスのご奉仕とかないそれ最高かよ……今度こそ、今度こそ俺は風俗に行って見せる!!!
毎度毎度邪魔が入って行けずじまいだったが、今回はそうじゃねえ。一人で調査に来た理由の約七割がこのためだ。
あの馬鹿どもと来ると間違いなく邪魔される。しかし、今日はそんなお荷物共はいない。
必ず、必ず俺は目的を遂げて見せる。
そう心に決め、俺は夜の街に足を進めていった。
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