第290話
そしてモンテロッサと対になる様に描かれた玉座に座す存在。
俺はこの存在を知っている。
人類史にその名を遺す最低最悪、最恐最強の存在………
一説によればその戦闘能力は序列持ちの古代種の中でも70番台に匹敵するほどの化け物。
神と称された化け物を単身力でねじ伏せたという超常の怪物。
「……原初の魔王……やっぱ噂は本当だったってわけか」
小さくつぶやいた俺の声に反応する薬屋。
肩をびくつかせ、こちらをぎこちない動作で振り返るその動作からは明らかに緊張が見て取れる。
「……マジですか」
「マジだ」
少ないやり取りに対し、薬屋は再び壁画に視線を送る。
視線の先にはここにきてから目にした玉座と同じ造りの物に腰掛ける一人の女。
黒い影のように描かれているが、しかしそのフォルムから人と同じ形をしていることが分かる。
「ちょっと私帰っていいですか?」
「そうだな。こっから先はさすがにマジでどうなるか分からんし、お前が死んでも俺は責任取れない」
そう言うと顔を青くした薬屋はその場からそそくさといなくなってしまった。
まああいつなら何となくだけど大丈夫だと思う。あれだけの罠に引っ掛かりながら生き残れたんだし、本当に運がいいのかもしれない。
「さてと……」
薬屋がいなくなったことを確認してから俺は再び壁画に視線を向ける。
この壁画はどう見ても戦神モンテロッサと、そしてルーシアの起動式部隊、それと恐らくこれは英雄……そして最強の魔王の戦いを描いたものなんだろう。
この壁画からはその当時の戦いの苛烈さがよく伝わってくる。
今この時代の最強の国家であろうと、統制協会の連中が援軍に来ようと、ここまでの戦力を整えることは果たして可能なんだろうか。
それほどまでに過去の英雄は強く、起動式部隊は異常な強さを持っていたはずだ。
だが、それをもってしても、この話が外に漏れたことはない。つまりそれは戦いの生き残りが他にいないことを示唆している。
要するに、皆殺しにしたのだ。これだけの戦力、今の時代で揃えられれば世界の覇権を優に握れるような戦力をかき集め、敗北したんだ。
それ程までに戦の神は埒外で理外の存在だったと……
「……ふぅ―――」
手足が震えてくる。
この一枚の壁画から、この一枚から得られる情報から、数秒で感じ取った欠片から、ここまで絶望させられるなんて思わなかった。
なんせ、これだけの化け物であろうと、こいつは―――序列5位なんだから。
序列1位、神の父であり天地開闢を支配するという、神の名を超えた存在 神王ノスト・ガウリエラ。
序列2位、天域を支配し、ノスト・ガウリエラによって最初に生み出された存在。神であり古代種の性質も併せ持つ怪物。天神レジェドリアム。
序列3位、全ての悪の性質を兼ね備え、レジェドリアムの対として生み出された化物。悪神ガルドリアム。
序列4位にして、地上に存在する最強種をベースに、翼を持ちながらも地上を支配することを神命に産み落とされた最強。龍神リンドブルム。
そして、序列5位にして、ノスト・ガウリエラから生まれながら、神を殺す力を秘めた異端。戦神モンテロッサ。
モンテロッサの戦闘能力も異常な物だろうと予測できるが、しかし、それよりも上が4体も存在するという絶望。
さらに言えば、その古代種と長きにわたり戦ったとされる古き神々――古神達。
こんな化け物が群雄割拠する時代なんざ命がいくつあっても足りやしねえし、本当に人類のご先祖さまはなんで生き残れたのか不思議で仕方がねえ。
ご先祖様に感謝しつつ、壁画の解析を進めていけば、一か所おかしなところを発見してしまった。
あの玉座があった場所がこの壁画と同じだった場合、この壁画に描かれている戦場は……
「まさか、封印か? しかもその上に宮殿を建てたってのか?」
何とも命知らず……しかしなかなかに合理的だ。
これだけの怪物の封印だ。魔法陣の大きさは想像を遥かに超える。だったらそれを含めて宮殿で隠しちまえばいい。それを後世に言わなけりゃ……完全に隠匿できるわけだ。
だけど、もし仮に封印が解かれたり、内側から破られた場合は……王から先に死んでいくことになる。
それだけの覚悟、それだけの代償を払わされたんだろう。
そこまで読み取って、俺は少しだけ仕掛けを施し、この部屋を後にする。
この部屋にはほかに目立った仕掛けもなければ、何か他のものがある気配もない。
純粋にこの壁画を残し、隠すための施設だった。そしてこの情報にはそれだけの価値がある。
かつてのこの地を収めた王と、原初の魔王が懇意にしていたなんて新事実があるんだ。
あとは調査隊をここに派遣させれば俺の仕事はおしまい。頭がおかしくなるような大金がながれこんでくることになる。
……とまあ普通のやつならそう思うわな。
ここで終わったら、ここで切り上げたらせっかくの大発見をよその野郎に掠め取られることになる。
そんなことは断じて許せねえし、何より、世界で今俺だけが知っている事実、世界で俺だけがたどり着いた歴史、そんな物を目の前にしてはいさようならなんて出来るはずがねえ。
誰も知らない歴史? 誰も知れなかった真実? いいじゃねえか。最高に浪漫があるってもんだ。
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