第289話
壁面に刻まれたルーシア文字は既に調べられた跡が残されており、一見すると外れのように見える。
しかしだ。俺の勘がこれは大当たりだと教えてくる。
間違いなくこの迷宮に、この墓にはまだ見ぬ財宝が眠っていやがる。
そもそもルーシアとはマキナを植民地化し、科学技術の独占を行った国だ。
それだけではなく、独自で発展させた魔法技術トマキナの技術を結び付け、起動術式という物をこの世界に産み落としたとんでもない国だ。
起動術式は今でこそ姿を見せなくなったが、悪魔との戦いの時代である暗黒時代において、その起動術式が人類を救ったとまで言われている。
あまりに難解である事と、突如起動術式を扱う連中が姿をくらませたことで、失伝してしまったと聞くが、俺はそのあたりを親切なロリ魔女からレクチャーされている。
持つべきものは長生きの友人だ。
これを聞かれたら間違いなく殺されるんだろうけど。
「要するに……」
起動術式を構築し、魔力を現象に変換させるための“命令文”を繰り抜いたものをそこに押し当てる。
そうすると、刻み込まれた文字の中から、いくつかの線が浮かび上がり、そしてそれらが起動術式の中で一つの命令文を構築した。
《開錠》
ルーシア語でそう書かれた文字が浮かび上がると同時に、どこかで重い物が動くような音がした。
「今の起動術式ですか!? どうしてあなたが!?」
「企業秘密だ」
既にどこが動いたのかは予想が付いている。マップを見せてもらった時に怪しいところは目星をつけておいたんだ。
そのおかげもあって、二つ目の予想された場所で、配布されたマップに存在しない通路を発見した。
「ビンゴ」
「おぉぉお!! 素晴らしいです! 凄いです!」
バカの歓声を聞き流しながら当たら良く生まれた道を進んで行く。
これから先に関しては前人未到の地になる。それこそ初見殺しのトラップなんかも数多く存在している可能性がある。
今までそう言った領域に足を踏み入れ、何もなかったことなんかないし、それこそルーシアが絡んできているのであればなおさらだろう。
「さて、進むとするか」
「わかりました! 背中は任せてください!」
「はいはい……」
やたらと元気な薬屋を放置し、そのまま迷宮の未踏地帯に進んでいく。今までは足元に自然発光する鉱石が転がっていたためそこまで視界は悪くなかったのだが、今回は薄暗く、鉱石の数も今までの半分以下ほどしかない。
それにこの配置、どう考えてもどこかしらに必ず”死角”ができるように配置されている気がする。
「気を付けろ。トラップがあるかもしれな―――」
「何ですかこれ! 見るからに怪しそ……あっ」
「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああッ!!!?!?!?!?」」
ちくしょう! 薬屋のバカが勝手にトラップを起動させやがったせいで、どこからともなく大量のカサカサという足音にも似た音が聞こえて来やがった。
その直後、黒いアレの集団が先ほど言った死角になりうる部分から這い出して来やがった。
「ふっざけんじゃねえ! テメエなにしてくれてんだよ!!」
「ごめんなさいごめんなさい……ごめんなさぁぁぁい!!!!」
間欠泉並みの勢いであふれ出すG。それから逃げるように俺と薬屋は迷宮の奥に逃げるよう……いや普通に逃げた。
「ぜぇ……はぁ……」
「ひぃぃ! こんな迷宮もう嫌です!!!」
ようやく害虫どもを撒いて開けた場所に到着したのだが、どうにもこの辺りは雲行きが怪しい気がする。
「見てください。これ……壁画みたいですよ」
「ん? ……確かにそうみたいだな」
薄暗くなっているところで、俺からはあまり見えないような場所にひっそりとある絵画に気が付いた薬屋。
俺もそれに視線を向け、それが壁画であることが分かった直後、そこに刻まれた“怪物”の姿に全身が震え出しそうになることに気が付いた。
「……こいつは」
血のような赤い甲殻を持つ八つの足。上半身は人間の、鎧のような姿をしており、長く伸びた尾には複数の首の無い人間が吊るされている姿が描かれている。
それ以外にも瓦礫まみれの背景。煙をあげる大地、地面を穿つ様々な武具たち。
空中を飛び交う人間と、先程の化け物を包囲するように位置取り、何かの筒から光線のような物をそれにぶつける人々。
そして、一番奥には玉座に腰掛ける女のように見える人間の姿が描かれていた。
「これってひょっとして……古代種なのでは……」
汗を垂れ流しながら小さくこぼした薬屋の言葉に俺は肯定の意味を込めて首を縦に振った。
「その中でもことさらやべえ化け物だ。戦いの神にして、翼を持つ者以外に決して逃れる方法はないと言わしめた怪物……序列5位。戦神モンテロッサ。それがここに記されている化け物の名前だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます