第288話

 今回の墓荒しには結構な資金を投入している。

 既にギルドで依頼の発行を行ってもらっており、あとは開始の報告をするだけだ。

 これまで何の問題もなく進めることができた。

 用意も万全ではないが、超レアな回復系統の秘薬であるドライアドの秘薬を入手し、この時の為にねちねち複製をつくっていた。

 俺のコピーでは高度な物を複製するのに相当な時間を要する。

 干渉力がもう少し高ければそんな問題もなくできたはずなんだが今更そんなことを言っても仕方がない。


 しかし、それでも相当な時間をかけながらもドライアドの秘薬を相当数複製することに成功もしたし、装備もそれなりに整っている状況ではある。


 これだけの準備を行うのに一体どれくらいの金がかかるのか、過去を振り返るのが怖くなるレベルだ。

 だが、それでも俺はロマンの為に、まだ見ぬ遺物の発見のためにこれらをこなした訳だ。

 しかし、それなのに、どうしていきなりこんな面倒な奴に見つかってしまったのだろうか。


「さぁ! まだ見ぬ冒険が私達を待っています! 行きますよ!」


 最低だ。最悪だ。この世界は腐ってやがる。

 何一つ俺の思い通りに事が運ばないばかりか、ことあるごとに俺の邪魔をしてきやがるし、隙あらば俺のことを殺そうとしてきやがる。


 本当に糞みたいな世界だ。


「はぐれても、魔物に襲われても知らないからな。そん時は自己責任だ。潔く死んでくれ」


「ご安心を! 私こう見えてかなり運がいいんです!」


 俺の運でも吸収してるんじゃないだろうな。


「まあいいや……さっさと行こう」

 

 余計な荷物を抱えてしまったが、いざとなれば見捨てればいい。そう思考を締めくくり足を動かす。

 目指すは、最強の墓と呼ばれる、魔王が死んだとされている巨大な迷宮。

 あくまで魔王が死んだと“されている”だけで、誰も魔王が死んだことを確認できていないってところにロマンがあるよね。

 

 俺がその証拠を見つけたり、まだ発見されていない手記なんかが出てくればそれだけで一生遊んで暮らせる。


 最強の魔王は今でも熱狂的なファンが多く存在しているしな。オークションにでも出品すれば、それはもう目玉が飛び出すんじゃないかってくらいの金額が提示される事だろう。


 早速迷宮の中に入れば、途端に空気が一瞬重くなるような感覚を覚える。 

 迷宮といってもココは少し変わっており、魔物などが自然発生しない迷宮だ。もともと住み着いていた魔物どもは既に一匹起こらず駆逐され、今ではただの観光地に成り下がっているわけだけど、だからこそこういうところの再調査ってのは定期的にある。

 

 迷宮なんてものは未だに解明されていない物で、いつ魔物が出てくるかもわからないし、唐突に迷宮の構造が変わるところだってある。だからこそ観光用に開放している迷宮などは定期的に中の調査を行わせるんだ。


 迷宮に潜ること10年の俺にとってはこの程度の迷宮は今まで腐るほど経験してきた。だからこそ分かる。この迷宮はまだ生きている。


「なんだか少し空気が冷たくなってきましたね」


 いくつかの査察ポイントを確認しながら、それ以外の所の調査を行っていると、薬屋がそんな事を言って来た。


「寒いんなら帰れば? というか帰れ」


「そこについてもご安心を。この服こう見えても防寒対策ばっちりなのです」


 なんでこんなにこいつ準備が良いんだよ……


「―――ん? これって……」


「珍しいですね。こんなところであの“ルーシア共和国”の文字を見るなんて」


 おいおい、こいつルーシア文字が読めるって言うのんかよ。俺だって星の記憶で猛勉強してどうにかこうにか覚えてきたようなもんだぞ……


「まあ、読めはしないんですけどね!」


「いや、分かるだけでもすげえよ。ってかお前本当に何者だよ」


「あぁ、こう見えて私、自分の足で薬の素材を集めたりしているので、結構色々な遺跡に入ったりするんです。その時にたまたま見たことがありまして」


 薬の素材って言えば高い物や霊薬クラスになれば採取の難易度はドラゴンの討伐に匹敵するようなもんだぞ……

 むしろ霊薬の中にはドラゴンの血を触媒にするものまであるくらいだしな……もし仮にそのレベルのものまで採取してたんならこいつは相当な怪物になるんだが……どうにもこいつからは“強さ”の類は一切感じられないんだよな。

 本当にどこにでもいる、ありふれた存在、その程度の力しかもっていない。


 まあ、俺みたいにオンリーワンにしてナンバーワンの無能じゃないだけましか。

 加護、寵愛、勇者の力は皆無だし、魔力に関しては俺自身に一切ないけど、周囲の魔力を一瞬取り込んだりしてどうにかこうにか誤魔化してきたわけだし。


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