第287話

「ここがシュテルクストですかぁ………なんだか不思議な物がたくさんありますね……」


 そう俺の横で声をあげたのは、何故か乗合馬車から俺についてきた薬屋だった。

 麻袋を重そうに担ぎながら、ずれたモノクルを掛けなおし、興奮したような視線を俺に送ってくる。


「ユーリさんユーリさん! 観光! 一緒に観光しましょ!」


「死ねゴミ野郎。二度とその面を俺に見せるんじゃねえ」


「まったくユーリさんは素直じゃありませんねぇ。それじゃ向こう見に行きましょうか!」


 そう言って俺のことを引き摺る様にして引っ張っていく薬屋。本当に面倒な奴に絡まれたもんだ……


 適当にどこかではぐれてそのままおさらばしよう。これだけの大都市だったらもう再会は望めないだろうし。



 ずりずりと引き摺られる俺を周囲の連中がチラチラ見てくるが、そんな物は猛慣れっこだ。

 生憎こっちも10年近くこんな感じなんでね。 

 丁度歩く手間が省けたと思えばいいか程度に考えつつ、俺はシュテルクストの街並みを見つめた。


 機械圏の機械+魔法圏の魔法を合わせ、独自の文化を形成している。それだけじゃない。どういう訳か、そこかしこから精霊の気配まで感じやがるし、普通に生活している連中でさえ、たまに英雄クラスの連中が混ざってる。


 建物の形も多種多様で、近代的なオフィスビルのような物もあれば、巨大な木の枝部分に施設がいくつも載せてあるような物もある。

 極めつけは、デカい土台のような建造物の上に浮遊する球体。その球体にも窓があり、目を凝らせばそこにも人がいるのが分かる。


 近いイメージだと、フ〇テレビのあの丸いところが宙に浮いてる感じ。


 スーツ姿だけど明らかに英雄クラスの連中や、巨大な武器を背負った冒険者の風貌の連中などが入り乱れており、本当に不思議な場所だった。


 暫く基地外馬鹿に引っ張られていると、ようやくお目当ての物を見つけたのか、薬屋が足を止めた。


「到着か?」


「はい! ここに一度は来てみたかったんです!」


 到着した場所は街中にあれど、その周囲だけは瓦礫の山のようになっており、その中心にただ一つ無傷のまま居座る巨大な玉座があった。


「かの原初の魔王が座ったとされる玉座です」


 噂には聞いたことがある。どのような兵器をもってしても傷つけることさえできず、いかなる英雄であっても触れることさえ叶わず、例え最強の軍隊であっても立ち上がらせる事さえ出来なかった、最低にして最悪、最強であり最恐の魔王―――原初の魔王。そんな怪物がかつては存在していたと。


 噂ではあの有名な帝国の女将軍であっても恐らく触れることもできないであろうと言われている正真正銘の“史上最強”と呼ばれる魔王。


 しかし、その魔王の生い立ちは不明であり、突如表舞台から姿を消したとかなんとか。


 まあ、星の記憶に到達した俺からすればこの存在が史上最強ではない事なんか一目瞭然だけど。


 この世界にいやがる古代種。こいつらはどんな個性も受け付けず、異能も特異体質だろうが跳ねのける。それだけじゃない。星の記憶にはなかったが、そいつらを封印して回った連中が存在している。


 それらに比べれば、まだこいつは理解できるレベルの最強だ。


 人類の最盛期と言われているらしい神獣時代にいた英雄共は大陸をジャンプで移動し、一閃で渓谷を作り上げ、山を素手で投げつけながら戦った等の記載があった。

 若干の脚色があるのかもしれないが、それを脚色と片付けられる程俺は能天気じゃない。


 それに、古代種みたいな超理不尽ではないが、それに匹敵する戦闘能力を秘めていたとされる神獣。それを殺すために作り出された人類の叡智であり、そして決して消せない業である偽神。


 こういった理解の外側にいる連中の中で一番なんざ決められるはずがねえ。まあその魔王がこういった連中と肩を並べるレベルの化け物だった可能性もあるんだけど。


 なんせこの魔王、一度たりとも全力で戦ったことがないそうだしな。


「観光名所みたいになってるんだな」


「そうですね。シュテルクストに来たらほとんどの人が必ず足を運ぶそうです! 私もこれが目的の半分くらいあったわけですし」


「うすッ!? 旅の目的うっす!!! 0.01ミリの壁レベルで薄いわ!!!」


「最近ですと味付きとかもあるらしいですね」


「いや知らねえよ」


 本当に面倒な奴だよこいつは。


「お前の目的は終わったんだろう? 俺はもう行くからお前も好きにしろよな。それと金輪際俺に関わるな」


「え、私普通にユーリさんの墓荒しについて行く気だったんですが」


「……勘弁してくれ」


 ほんとに、勘弁してくれよ……

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