断章 親友、戦友、好敵手。
第286話
「おっぱいプリンって、おっぱいみたいなプリンなんですか? それともプリンみたいなおっぱいなんですか?」
「話しかけんな」
「それってつまり、おっぱい味のプリンか、プリン味のおっぱいかってことですよね?」
「死ね」
「ところであなたはだれですか?」
「がぁぁぁぁああ!!! 本当にお前なんなんだよ! いきなり話しかけてくるし、わけわからねえことしか言わねえし! そもそも聞きてえのはこっちだよ! 誰なんだよお前! なんで普通に話しかけてくるんだよ! ってか話の内容がマジで脳みそに蛆でも沸いてんじゃねえか!? あぁ!?」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。それよりおっぱいってどうして我々男性の視線を釘付けにしてしまうんでしょうね」
「新章始まったからってお前やっていい事と悪いことあるからな」
「新章? 何ですかそれ、どういうことですか?」
馬車で遭遇した糸目の怪しい男。最初は警戒してたんだけど、一度口を開いたと思ったらおっぱいのことしか言わねえ。
何なんだよコイツ……
「そう言えば最近おかしな噂を耳にしますね」
俺が呆れた顔をしていると、唐突にその男は眉間にしわを寄せ、ため息を吐き出した。
どうにも穏やかじゃないし、それにその姿を見た瞬間に俺の面倒事レーダーがバンバン反応し始めやがった。
「なんでも、王都の付近だと謎の声が聞こえるとか聞こえないとか。しかもその声が聞こえた人は皆暫くして行方不明になってしまうそうなんです。あなたも是非気を付けてくださいね」
ニヤリと、男はどこかとぼけた印象を与えてきていた者と同一人物とは想像もできない悪意を孕んだ笑みを一瞬浮かべた。
「お前も気を付けろよ。最近の世論は下ネタには厳しいんだからな」
「おっと、それは怖いですね。くわばらくわばら」
がたがたと揺れる馬車の中で、そんな和やかな会話をしながら時が流れる。
これから向かう場所は決して穏やかな場所などではなく、むしろこの石アで最もそれから遠い場所にあるというのに。
「そういやさ、お前はなんで“シュテルクスト”なんかに?」
「私は薬屋をしておりまして、かの有名なシュテルクストであれば需要も高いだろうと思いまして。そう言うあなたは?」
薬屋……ねぇ……。
茶色い外套に、小奇麗な服を着た黒髪で長髪、糸目の男。
モノクル越しに見える瞳は糸のように細く、ニコニコと人当たりも良さそうに見える……が、どうにも薬屋なんかに見えない。
手先は綺麗なままだし、体からも独特の薬品臭さや青臭さを感じない。個性での生成を行うタイプかもしれないが、判断材料が足りない。
「俺は仕事だよ」
「はぇ~。お仕事ですか。ちなみにどのようなお仕事を?」
「質問攻めかよ…………ただの墓荒しだよ」
この地に眠るとされる“王”の異物を持ち帰ることが俺の今回のミッションだ。
まあ、何か危険なことがあるってわけじゃない。単純に再調査の仕事なんだが、俺の長年の勘がこの墓にはまだ何か隠されていると訴えかけてくるんだ。
そんなの、めちゃめちゃ燃えるじゃねえか。
「トレジャーハンターの方でしたか! だったらぜひ潜る際に私の店を御贔屓に! これも何かの縁ですしね!」
「やだよ。俺は綺麗なねーちゃんがいる店の薬しか買わねえって決めてんだ。誰が好き好んでお前みたいな変質者の所で買うかよ」
「おや、いつ私が男だなんて言いましたか?」
……え?
「実は私、こう見えても女……」
おいおいマジかよ……あんな基地外発言ばっかりしてやがったから勝手に男かと思いこんじまってたぜ……
確かによく見てみりゃまつげは長いし、肌も綺麗じゃねえか。
鼻もすっとしてて、糸目も見方によっては愛嬌がある様に見えないこともない。
「ではないんですけどね。さっきも我々男性の、って言いましたし」
「よっしゃ、テメエの命日は今日この時だ。ハイクを読みな」
「やっ、止めてくださいよ! こんな狭いところでなんてもの取り出してるんですか!」
俺が魔闘時代の遺物である高周波割断機を引っ張り出すと、薬屋は慌ててその場から飛びのき、焦ったように座席の上に立って可能な限り俺から距離を取ってきた。
―――もちろんその後に御者にめちゃめちゃにキレられたのは言うまでもない。
大の大人が二人正座して馬車の横でおっさんに叱られてる光景なんて誰得だよ。
さっさとお色気シーンと、ラブロマンスを持ってきやがれ。
―――大塚悠里、この時26歳での出来事である。
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